医療法人 ゆうの森
  法人概要 スタッフ紹介 利用申込 アクセス
在宅医療たんぽぽクリニック 訪問介護ステーションコスモス 居宅介護支援事業所コスモス 訪問介護事業所コスモス はりきゅうマッサージ治療院クローバ
ホーム ゆうの森について 在宅医療について ご利用にあたって スタッフルーム リクルート

HOME> スタッフルーム> コラム >コラムNO,3

スタッフルーム
スタッフ紹介
近頃のゆうの森
「ゆうの新聞」を読む
マスコミに紹介されました
コラム

医師たちの熱い思い
たんぽぽクリニックってどんなところ?
ゆうの森で働く人たち
一緒に働きませんか?
在宅ターミナルケアの取り組み
ニュース
クローバの森
お問い合わせ専用フリーダイヤル(はーい、なーに?おうしん!)0120-72-8104

コラム
イメージ

コラムNO3 在宅で出会った人々 その1 副院長 矢野博文「優しき心の頑固爺さん」
副院長 矢野博文
副院長 矢野博文
 私が初めて診療に伺った時、Nさんの部屋はガンガンにエアコンがきいて寒々としていた。その2階の小さな部屋で、寝ぐせのように頭のてっぺんの髪がピンと立った独特のヘアスタイルのNさんが私たちを迎えてくれた。エアコンの送風口には自作の魚の絵を切り抜いた薄い紙が貼られ、エアコンの風でパタパタと魚の絵が横泳ぎしていた。最初の訪問時からこれが気になっていたのだが、Nさんの口から次々に出てくる話に圧倒され、質問する機会を失ってしまった。

 このように私たちは最初の訪問時からNさんに主導権を握られた形になってしまった。しかし意外にもこのことが大変なお褒めに与ることとなった。今まで関わってきた医者は人の話を聞かないやつばかりだった。けれどあなた方は楽しそうに私の話を聞いてくれる・・・。これがその理由だった。確かに殺人的な数の患者さんが押し寄せる病院医療ではNさんの長い話を拝聴するのは難しかろう。けれどもNさんの話は本当に面白かった。総理大臣への批判から始まる政治の話が出たかと思うと、今度はいつも飲んでいる鶏がらスープの話が飛び出し、本当に面白かった。しかもこれらの話すべてにはその背後にNさんらしい価値観と思想がキラリと光っていた。しかしその日の最後の落ちは部屋の電灯のスイッチに結ばれたヒモであった。Nさんはこのヒモを指さし、自慢げにこれは自分の発明だ・・・と言った。その名も「ヒモコン」!!

 何回目かの訪問時にエアコンの魚の絵のことを尋ねてみた。「あの魚は何ですか?」「ああ、あれは鯉だ。」とNさん。近所の小さな水路に何匹かの鯉がいるのだと・・・。こんな狭い場所でよくぞ頑張って生きているな・・・とNさんは感心して、誰にもその場所が見つからないようにと祈りながらそっと見守っていたそうだ。しかしある日その場所は人に知れてしまった。そしてその鯉を見つけた人は鯉を捕まえて食べると言ったそうだ。これほど慎ましやかに懸命に生きている魚たちを食べてしまうなどと・・・。何と了見の狭いことか。何と懐の狭いことか。昔の日本人はこんなじゃなかった。いつから日本人はこんな人種に堕落してしまったのか・・・。Nさんは大いに嘆いた。怒った。結局魚たちがどうなったかは語らなかった。私はNさんがどんな人間なのか少しわかったような気がした。そして益々Nさんの話が聞きたいと思った。爺さんに話をせがむ孫のような気持ちになった。

 しかし、Nさんの話を長くは聞けなかった。Nさんの病状は確実に悪化していった。口腔底癌から転移した左肺の腫瘍は容赦なくNさんの体力を奪っていった。私たちがNさんを訪問する頻度は増していったが、Nさんの話はだんだんと短くなった。私自身は診療に伺うというより、瀕死の老教授の最期の講義を受けに伺うといった感覚であった。奥さんや息子さん夫婦が暮らす1階に降りて療養したらいかがですか・・・と幾度も勧めたが頑として聞き入れなかった。「私は2階のこの部屋で死ぬのだ!」ときかなかった。これは家族に面倒をかけないようにするための、家族への深い思いやりだと言った。本当は思いやりというより最期まで自分のやりたいようにするという意地っ張りから出た言葉だと私は思ったが、ご家族も含め誰もが無理強いはしなかった。しかし、図らずもというか、私たちには都合がいいことに2階のエアコンが突然故障した。魚たちはもう泳がなかった。魚たちがNさんを家族のもとへ導いたのか・・・。これを契機にNさんは1階の家族のもとで療養することとなった。けれどもこの頃から食事が次第に摂れなくなり、呼吸苦が生じるようになった。それでも私たちが帰る時は「ありがとう」と手を強く握って下さった。大阪在住の三女さんが帰ってこられた頃には、意識が混濁し始め、深夜まで看病したお嫁さんに変わって三女さんが徹夜で看病された日の朝に旅立たれた。

 私はNさんに、心優しいが気骨ある頑固爺さんのさわやかな生きざまをみせていただいた。ちょっと意地っ張りだけれど、さわやかな夏の日のそよ風のような爺さんだった。自宅で最期を迎えたいとご自分で決められたNさんに、私たちがどれほどのお役に立てたかわからないが、最後に三女さんが「落ち着いて自宅で看取ることができ、ありがとうございました。」と言って下さった言葉がありがたかった。こちらこそ有意義な講義をありがとうございました。

BACK一覧に戻る


医療法人ゆうの森 お問い合わせ サイトマップ プライバシーポリシー
〒791-8056 愛媛県松山市別府町444-1
Tel:089-911-6333 Fax:089-911-6334
お問い合わせ専用フリーダイヤル0120-71-8104