職員リレーエッセイ

  

06 父

2016年1月27日、61歳の誕生日を目前に父が亡くなり6年が経ちます。
父との思い出はそれほど多くはなく、子供のころに遊んだ記憶といえばサッカーと釣りで近所の小さな釣具店によく連れていかれました。
中学生になると部活動で私も家で過ごす時間が少なくなりました。成長と共に同じ時間を共有することは必然的に少なくなり、父とゆっくりと話をする機会が無くなっていきました。
じっくり話をしたのは高校3年生の冬、進路を最終的に決める時でした。国公立大学を数校受験しつつも「自分は何がしたいのか」を、はっきりと父に自分の口から伝えることができないままでした。


ある大学の試験会場からの帰り、車で迎えに来てくれていた父が「ちょっと寄ろうや」と小さな喫茶店へ入りました。その日は雪が降っていて、お店の窓ガラスから店内の灯りがほんわりとにじんでいました。父は珈琲を、私はココアを頼み、何となく疲れた頭と体を休めていると「1年ならいいよ。自分の行きたいところがあるならそこに行きないよ」と父からの一言。色々と悩みながらこの時期を過ごしていたことを分かっていながら、何も聞かず見ていてくれたのだとその時知りました。私は、自分の進みたい道を父に伝えました。父は「頑張りないよ」の一言でした。急遽進路変更し受験、4年間やりたいことに向け励むことができました。

葬儀の後知人から「父ちゃんは、相当心配しとったみたいよ」と…。実は、父があの時の私の発言に悩み、知人や親戚にいろいろと聞き調べていたことを知りました。なんとも苦い気持ちになりました。あの時何の相談もなく私の我儘を無条件に聞き入れてくれた父に感謝の気持ちでいっぱいになったと同時に、もっと話していたら…と。
今年の夏は墓参りに行けそう。そして今、自分の人生を謳歌している母と、これからもっともっと話をしよう。

Written by 作業療法士 K