著者:永井康徳
もともと在宅医療専門クリニックとして、たんぽぽクリニックは開始しました。そして、10年ほど前に、有床診療所「たんぽぽのおうち」を開設しました。在宅で療養される方々は、自分の家が一番いいと思っている方が多いと思いますが、家にいたいと思っても、いろんな事情、例えば介護力や様々な不安などで、家にいることができなくなることがあります。そんな場合も当院の病床に入院して、同じ医師や看護師がそのまま最期までみることができればと思って作ったのが、この「たんぽぽのおうち」です。
そして、この「たんぽぽのおうち」には、いろいろな機能があるのですが、大事な機能として、食支援の機能があります。高齢の方たちで、誤嚥性肺炎になって病院で治療して、肺炎は良くなったけれども、点滴して、吸引が必要になり、なかなか口から取ることができないという方がたくさんおられます。そういう方がたんぽぽのおうちに入院してくるのです。そして、多職種のチームで食支援を行っていくと、6割ぐらいの人は一通り食べられるようになり、3割ぐらいの人は看取りになリます。しかし、6割ぐらいの人が食べられるようになって、一旦住み慣れた自宅や施設に帰っていかれるのです。そのような取り組みを講演会やYouTube、本などでもいろいろ発信をしています。すると、最近、特にYouTubeを見た方が、愛媛県内だけでなくて、県外の人からも問い合わせがあります。当院の相談部署である「なんでも相談室」に相談が来るのです。
以前は、愛媛県内の松山市以外の地域、今治市や野村町、当院のへき地診療所がある西予市あたりからの問い合わせが主でした。わざわざ松山の「たんぽぽのおうち」に入院してきて、そしてそのまま良くなって帰ったり、看取られる方がおられました。
最近では、県外から問い合わせがあります。東京、神奈川、千葉、近いところでは、広島や山口など、県外からたんぽぽクリニックのように食支援をしてもらいたいと問い合わせをいただきます。入院して、ずっと点滴して吸引している方が、このまま看取りになることも覚悟しているけれども、最期に少しでも食べさせてあげたいと思われるようです。しかし、自分たちの地域には食べる取り組みをしてくれる医療機関がないため当院に問い合わせて来られ、遠方ではあっても、たんぽぽのおうちに転医してチャレンジしたいと言われる方が多いのです。
しかし、そういう状態の方は不安定で、例えば東京からこちらまで来ることとなり、飛行機に乗せるとなると航空会社の許可を取ったり、新幹線や車になると長時間の移動になったりと、体力が耐えられるのかという話になるわけです。
以前、県外から絶対にたんぽぽのおうちまで連れて行きたいと言われて、家族も引っ越してくると言ったご家族がおられました。うちのアパートに居住する段取りをして、翌日には引っ越して来られるというところまでいっていたのですが、その前日に亡くなられたのでした。県外のような遠方から来られるときに、私たちにはその方の状態がはっきりわからないため、向こうの主治医に確認すると、なかなか連れて行くのが難しい状態という人が多いので、できる限りその近くで食支援をしてくれる病院を当たって、探すことが多いです。
本来なら、入院されている病院の連携室などに相談すれば、紹介してくれるはずですが、地域全体が最期まで治療を行うことを優先しているような地域だと、なかなかそういう食支援をしてくれる病院や診療所につながっていかないというのがあると思います。実際には遠方の私たちがそういう病院を紹介するということもよくある状況ではあります。
もちろん、点滴して治療してよくなる、そしてまた食べられるようになれば最高なんですけれども、食事が取れない状態が続き亡くなるのであれば、少しでも食べたいものを食べたいという気持ちがあると思うので、それを実現するような取り組みをしている医療機関やチームが全国の地域に広がることを望むばかりです。