たんぽぽコラム

フリートーク

著者:永井康徳

  

第23回 『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』出版記念
パターン1 患者本人と配偶者の意見が異なる場合


2026年6月8日、『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』を出版しました。在宅医療の現場で何度も出会う「困りごと」を、いくつかのパターンに整理した一冊です。
その出版を記念して、本書の最初のテーマ、パターン1「患者本人と配偶者の意見や方針が異なる場合」をご紹介したいと思います。

在宅医療をしていると、本人の希望とご家族の願いが、まったく違うという場面によく出会います。 「本人は延命を望まないけれど、家族は一分一秒でも長く生きてほしい」。 「本人は家にいたいのに、家族は入院してほしい」。 こういうとき、私たちはどう関わればいいのでしょうか。本書では、2つの実際の事例から考えています。

【ケース1:エツコさん】
お一人目は、ALSを患った78歳のエツコさん。 本人は「人工呼吸器をつけてまで生きたくない」と、はっきり言っておられました。決して投げやりな気持ちではありません。生け花や詩吟の先生もされ、地域でも活発に生きてこられた方が、自分の人生を十分に考え抜いた末の、揺るぎない結論でした。
一方でご主人は、奥さんを深く愛するがゆえに「一分一秒でも長く生きてほしい」と、すべての処置を望まれたのです。何度話し合っても、お二人の意見は平行線のままでした。

転機になったのは、遠方に住む息子さんに連絡を取ったことです。ご主人とは疎遠になっていた息子さんでしたが、帰ってきてくれて、お母さんの気持ちを後押ししてくれました。 夫婦お二人だけの関係に、家族の力が加わったことで、ご主人も折れ、エツコさんは望み通り、自然に最期を迎えることができたのです。

【ケース2:トモコさん】
もうお一人は、血液のがんと腎不全を患った65歳のトモコさん。 本人は「家で過ごしたい」、ご主人は「透析を続けるために入院してほしい」。やはり、意見は平行線でした。
私たちは朝のミーティングで毎日このことを議題にあげ、キーパーソンである娘さんを交えて話し合おうとしていました。ところが、その話し合いの直前に、トモコさんは亡くなってしまったのです。 ご主人は突然の死を受け入れられず、長く混乱されていました。
振り返って私が痛感したのは、キーパーソンを、もっと早く巻き込んでおくべきだった、ということです。

【3つのポイント】
この2つの事例から、大切な3つのポイントが見えてきます。
① 一番大切なのは、本人の意思を最優先すること。
本人のイノチであり、カラダなのですから。

② しかし、ご家族も納得できる選択肢を、一緒に考えること。
ご家族がなぜそう願うのか、その思いを丁寧に聞くことです。

③ 本人と配偶者だけで平行線になったときは、他の関係者を巻き込むこと。
一対一では対立しても、二対一になると、人は自分の意見を見つめ直せるようになる。私たちは、それを何度も経験してきました。

【終わりに】
何が正解かは、誰にもわかりません。だからこそ、結果だけではなく、一緒に悩む過程を大切にしたい。 ご家族が異なる意見を持っていても、私たちは信念を持って、患者さんがご自分の意思を選べるように支援していきたいと思っています。
そのヒントを、たくさんのパターンとしてまとめたのが、この『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』です。ぜひ、お手に取ってみてください。


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