たんぽぽコラム

フリートーク

著者:永井康徳

  

第32回 とうきびのおもてなし ~寝たきりになっても、人は誰かをもてなしたい~


訪問診療のおばあさん
私が訪問診療に伺っている、九十四歳のおばあさんがいます。寝たきりで、ほとんど布団の上で過ごしておられます。
この方は、私が伺うと、いつも布団の上で手を合わせて迎えてくださるのです。
そして診察が終わると、決まってこう言われます。
「先生、炊き込みご飯を食べて帰って」
体はもう思うように動きません。それでも、来てくれた人をもてなしたいという気持ちは、まったく消えていないのです。私はその言葉を聞くたびに、いつも自分の祖母のことを思い出します。

祖母ととうきび
私の祖母は、久万高原町で暮らしていました。九十歳を過ぎても一人暮らしで、家の目の前の畑でとうきびを作っていました。
夏休みになると、子どもや孫、ひ孫たちがみんな祖母の家に集まります。茹でたてのとうきびを、みんなでかじる。それが我が家の夏の恒例でした。
その祖母も、百歳で寝たきりに。ところが、ヘルパーさんや看護師さんが来るたびに、祖母はこう言うのです。
「とうきびをあげて」
寝たきりになっても、まず相手に何かをあげたい。
祖母は知っていたのだと思います。とうきびがあれば人が集まる。人が集まれば、自分は独りではない。人にとうきびをあげることが、祖母にとって最高のおもてなしだったのです。
祖母は百四歳まで生きて、私の孫、祖母から見るとやしゃごの顔まで見ることができました。

気づいたこと
在宅医療をしていると、私たちはつい「支える側」だと思いがちです。患者さんを支えている、ご家族を支えている、と。
でも実際には、手を合わせて迎えていただいたり、「ご飯を食べて帰って」と声をかけていただいたり、支えられているのは、むしろ私たちの方なのです。
寝たきりになると、「何もできなくなった」「人の世話になるばかり」と感じてしまう方も多いと思います。でも、そうではない。誰かを迎え入れ、もてなしたいという気持ちは、最後までその人の中にあります。
そして、その気持ちを受け取ることも、私たち医療者や介護者の大切な役割ではないかと思うのです。お茶を一杯いただく、ちょっと話を聞く。それだけで、その方は「もてなす人」でいられます。

おわりに
「食べて帰って」という言葉に、祖母の「とうきびをあげて」が重なります。どちらも、寝たきりになってもなお、人を迎え入れようとする声です。
皆さんの周りにいる高齢の方も、きっと誰かをもてなしたいと思っておられるはずです。その気持ちを、ぜひ受け取ってあげてください。

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