たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第4回 24時間対応の工夫

在宅医療には、24時間対応が必須と言われていますが、医療従事者にとっては負担が大きい体制です。なぜ、在宅医療に24時間対応が必要かというと、現在は病院という安心できる場所で療養したり看取りを行っていたりするからです。安心できる病院から自宅に帰って療養し、自宅で看取ろうとしたときに、急に何かあったときにどうしたいいかわからず、不安になるからです。ですから、在宅療養の開始時に大切なことは、患者さんやご家族の不安を取り除くことです。
ただ、24時間対応をすると言っても、電話で相談したり往診したりしなくてもいい状態のほうが、患者側も医療従事者側も良いと思います。どうすれば時間外対応を減らしつつ、患者の安心や満足を増やすことができるのでしょうか?

24時間しっかり対応する在宅医療があるからこそ、患者は安心して自宅療養を続けられます。そう考えて24時間体制を構築しましたが、患者にとっては「夜間に往診依頼しなくてもいい状態」のほうがいいのではないかと思い始めました。なぜなら、夜間に思いがけず体調が悪くなると患者・家族は一層不安になるし、患者によっては「こんな深夜に連絡したら申し訳ない」と朝まで我慢する人さえいます。それに夜間などの時間外の往診は日中に比べて費用が高く、患者の金銭的な負担も増えるからです。

患者を「往診依頼しなくてもいい状態」にするために試行錯誤する中で対応策がわかってきました。「夜間などの時間外の対応を減らす」と言うと、患者をないがしろにするように聞こえるかもしれませんが、次の4つの対策を取ることで時間外対応が減少するにもかかわらず、患者の満足度や安心感を高めることができると思います。

①患者や家族が不安にならないように病状に合わせた訪問頻度を設定する
退院直後や状態が悪化した場合、訪問回数を増やすことは当然の対応です。
では、患者や家族を「不安にさせない頻度」とは、どの程度でしょうか?私は職員に次のように問いかけています。「ある患者に週1回訪問をしていて、その患者が亡くなったとしたら、家族はよく診てくれたと感じるだろうか?」と。月1回の訪問診療でも管理料は算定できますが、こちらの都合や考えで訪問頻度を決めるのではなく、患者や家族と相談しながら訪問頻度を決めたいものです。日中に十分に診ておけば、患者も家族も安心するし、夜間の状態悪化も防げるはずだと思います。

②今後予測される変化や、それに対する対応策をあらかじめ患者・家族に説明しておく
末期がんの患者に痛み止めとして飲み薬だけを処方し、ある夜、飲み薬を飲めない状態になってしまったら?患者は痛みがあるのに薬が飲めないことで連絡するだろうし、「薬が飲めないほどに悪化してしまった」と悲観するでしょう。
そこで、痛み止めとして飲み薬と座薬を処方し、「薬が飲めないときは座薬を使用するように」とあらかじめ説明しておきます。患者は薬が飲めなければ座薬を使うし、薬が飲めない状態になってもさほど不安に思わないはずです。事前に予測できる変化を患者や家族にあらかじめ説明し、対処しておきます。次の一手を打っておくと患者や家族は安心できるし、時間外の連絡も減るでしょう。

③時間外対応をした患者には、再度、翌日に対応する
たんぽぽクリニックでは、夜間に連絡があって往診などの対応をした患者には、対応した当番看護師が翌朝8時30分までに必ず連絡して、現状を確認しています。朝の全体ミーティングで夜間対応とともに今朝の様子を報告するためですが、これには2つのメリットがあります。我々は経過を知れるし、患者側は「往診のされっぱなしではない」と感じられることです。そして、快復していたとしても、その日のうちに念のために訪問するようにしています。それによって夜間の再発を防げますし、検査や専門科の受診が必要となった場合も日中の時間帯であれば十分な対応ができるからです。

④24時間いつでも電話連絡ができること、相談できることを患者・家族にしっかりと伝えておく
「いつでも連絡できる、対応してくれる」と患者が理解していると、安心感からか逆に時間外の連絡が減るようです。そのためにも患者と家族には、「不安なことがあったら、いつもでもどんなことでも連絡してください」と話すとともに、24時間、患者からの電話連絡に対応しているし、往診もするということをしっかりと伝えています。

時間外に連絡する患者・家族の思いを汲む対応も大切です。「37℃の発熱がある」と家族から時間外に連絡があったらどうするでしょうか。クリニック側は往診するほど重篤ではないと考え、クーリングして様子をみるように指示する電話対応で十分と考えるかもしれません。しかし、家族には言葉では伝えられないような症状があるため、本心では往診を希望していたということもあります。そうなると、家族としてはやっとの思いで連絡したのに電話だけで済まされたと感じ、今後も十分に対応してもらえないのではと不安を募らせてしまいます。

こういった事態を防ぐために、私はファーストコールを受ける看護師には必ず「往診しましょうか?」とこちらから先に尋ねるようにと指導しています。クリニック側から尋ねると、往診を希望している人はYesと答えやすく、そこまで考えてない人は「電話で教えてくれるだけでいい」と答えられるからです(さらに当院では、往診希望の患者には必ず往診に行くようルール化しています)。「往診しましょうか?」と先に言ってもらえると、不安な中で電話をかけた患者や家族は安堵します。
在宅医療において時間外の対応は大変重要なことですが、患者や家族の安心や満足度を高めるためにさらに踏み込んだ心遣いや対応をしたいと考えています。

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