たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第5回 適切な訪問頻度は?

訪問診療は週3回まで、急性増悪時などは週4回以上訪問することが診療報酬上は可能です。しかし、「月2回しか訪問診療をしない」という在宅クリニックが散見され、ホームページで明言しているところもあるようです。「月2回まで」の理由は人員不足もあるのかもしれませんが、管理料(在宅時医学総合管理料及び、施設入居時等医学総合管理料)の算定上、月3回以上訪問診療を行うと診療単価が下がるからという経営的なものではないかと考えられます。訪問診療の適切な頻度はどう考えるべきなのか、当院の実践と私の考えを述べたいと思います。

私が考える適切な訪問頻度の指標は2つです。
1つは「その頻度で患者が安心できるのか?」ということです。当院では、訪問診療の回数を当院側から指定することはしません。新規患者には「週何回来たら、安心ですか?」と問い、希望に合わせます。こちらとしては「退院直後だから、まずは週2回で始めよう」と考えていても、「週3回来てほしい」と言われれば、週3回の訪問診療から始めます。患者や家族が在宅生活に慣れた頃を見計らって、週2回に減らすことを提案するようにしています。すると患者側も快く応じてくれます。それとは逆に「悪くなった時だけ来てほしい」という患者もたまにいます。病状が悪化した時点で訪問しても入院することになるだけで、在宅医療の本来の目的である安定した在宅療養の継続にはつながりません。こういう時は、定期的な訪問診療のメリットを説明し、月1回か2回の訪問診療を納得していただきます。

また、終末期の患者であっても、本人や家族が2週に1度でよいと言う場合もあります。こういう時は、2つ目の指標、「患者が亡くなった後、家族が『よく診てもらえた』と思ってもらえる頻度がどうか」で考えます。医師が2週に1度しか診に来ない状態で患者が突然息を引き取った時のことを想像してみましょう。家族は「医師に十分診てもらえないから、亡くなってしまった。こんなことなら入院していたほうがよかった」と後悔しないだろうか?最悪の場合、「医師から十分な治療を受けられないために死んでしまった」とトラブルになったりしないだろうか? 看取り期の訪問回数には特に配慮が必要なため、当院では看取り期の患者に対する訪問回数はクリニック全体で注意を払っています。
患者の状態が安定しているなら、月2回や1回でも何ら問題はありませんが、導入期や退院の直後、急性増悪時や看取り期は患者・家族が安心できる頻度で訪問診療を行いたいものです。

月2回の訪問診療であっても訪問看護もあるし、必要時は往診で対応するのだから問題ないのでは?と考える向きもあるでしょう。しかし、私の経験上、遠慮をするためか電話連絡や往診の依頼ができない患者や家族は多いです。その上、往診は単価が高く、患者に経済的な負担をかけることになります。
「すべての患者に対して月2回しか訪問しない」のではなく、必要な患者には必要なだけ訪問診療ができる体制を構築したいと考えています。その柔軟な対応力が自院の強みとなり、他院との差別化に繋がるはずです。地域の専門職や住民は、考えている以上に医療機関の対応を注視しています。在宅クリニックが増える中で「選ばれる存在」となれるよう、訪問頻度だけでなく、提供するすべてのサービスを患者目線で考えたいものです。

毎朝行う全職員が参加するミーティングで、サイボウズ社のkintoneを利用して情報の共有や方針の統一を行っています。特に終末期患者は「看取り体制一覧」で情報を集約し、看取り期の患者の状況を職員全員で確認します。 患者の予後と訪問回数がリスト化されており、訪問頻度の適正をチェックしやすくしています。
例えば、週単位の予後にもかかわらず訪問診療が週1回であれば、主治医に訪問回数を増やすようにその場で指示を出します。

また、当院には「TTC(とことんケア)」というルールがあり、これが発動された患者には採算度外視で訪問してよいことにしています。一人暮らしや老老介護などの手厚いケアが必要な患者の予後が日単位となった際にはTTCを発動することで、診療や看護が頻繁に訪問でき、患者・家族に十分な支援が行えます。

(ポイント)
・医療機関の都合ではなく、「患者の安心感」で考えよう。
・導入時、退院直後、看取り期は特に手厚い訪問体制を取ろう。
・患者の希望通りに訪問診療ができる体制は強み。他院との差別化にもなります。

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