たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第6回 職員に理念を伝える方法

当法人では「クレド」を制作し、活用しています。今回は、このクレドについて詳しく紹介したいと思います。
クレドとは、従業員が心がける信条や行動指針のことで、法人の社会的責務や存在意義を示す法人理念とは異なります。クレドとは、職員一人一人に浸透することで、自分で考えて行動できる人材の育成を目指すものです。

当法人で「クレドを作りたい」と最初に言ったのは、実は私ではありません。職員が急激に増えた開業10年頃、現場で人材育成を任された管理職からの意見でした。新入職員とは言っても専門職の中途採用者のため、一から仕事を教えるというよりも、手順やルールを教えることや、引き継ぎが中心になります。ルーティンであれば、それで十分に仕事がこなせるようになるからです。

しかし、10年の間に組織に蓄積された「想い」を伝える手段がなく、悩んだ管理職がクレドを必要だと感じたのでしょう。その後、発案者を中心にクレド制作委員会を作りましたが、そのまま立ち消えになりました。
それから数年後、私自身がこのままではマズイと思う事態が起こり、クレドの必要性を痛感しました。患者から訪問回数を増やしてほしいとの要望があったにもかかわらず、看護師が断ったのですが、その理由が「永井先生なら、絶対に受けなさいと言うとは思ったが、今以上に忙しくなると、他の職員から文句が出るから」というものでした。私の考えを理解している古参の看護師の言葉だっただけに、余計に危機感を感じました。いつの間にか組織全体が「患者ではなく、職員の機嫌を伺いながら仕事をする」という雰囲気になってしまっていたのです。

自分たちの行動指針を言語化し、クレドという形にすることは手間のかかる作業でしたが、できあがったクレドを職員に浸透させることはさらに大変でした。
当院のクレドは、私が患者と接する上で大切にしていることを11個のキーフレーズにし、解説する文章をつけたA5サイズの冊子に仕上げました。
職員全員に配布するだけでなく、クレドの浸透のために毎週金曜日の全体ミーティングの開始前に全員で朗読を行っています。当番職員がリーダーとなって1フレーズと解説文を全員で朗読し、その内容に対してリーダーが感想や実体験を述べるということをしています。当初は「宗教みたいで嫌だ」という声もありましたが、職員各々の感想や想いを聞くうちに、クレドを共有する意義が理解できたのでしょう。反発の声もやがては収まりました。

クレドを作ったことによるメリットは大きく、顕著な2つ紹介すると、1つは、基準とする考えが職員間で共有されていると、患者のケア方針で職員の意見が分かれたときも結論が導きやすいということです。もう1つは、クレドが職員に浸透すると、クレドを体現しようと自分で考え、行動できる人材に成長していくことです。これは予想以上に効果がありました。開業20年でここまで事業や活動が広げられた要因の1つは、クレドが浸透した職員がやりがいを持ち、自律的な働きをしたことだと私自身が実感しています。

職員の行動指針であるクレドは内部向けのものですが、外部に発信することにも意味があります。外部に公表したからには、クレドに沿って行動しなければと自らを律することができるし、自院のホームページに掲載したり、見学者に配布したりすることで、自分たちの想いや行動指針を明らかにでき、その内容に共感して就職を希望する人もいるからです。 人材育成で悩んでいる組織には、クレドの制作をぜひおすすめしたいと思います。そのためにもまず、トップが自分の想いを言語化することから始めてみてはどうでしょうか。

▶クレド「ココロのめざすところへ。」はこちらのページで公開しています。

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