たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第9回 在宅クリニックを開業前に考えておきたいこと

私がもし今、在宅クリニックを開業するとしたら、どういう準備をし、開業当初に何に注力するか?をテーマにお話ししたいと思います。
後発組となる今、開業するとしても「理念」「システム」「人材」の3本柱を大事にすることは変わりないと思います。
クリニックを軌道に乗せるために欠かせないものだと確信していますので、当院では開業を志望している医師に、開業前後なら「理念」、すなわち自分がどういう在宅クリニックを作りたいかというビジョンが最も重要だとお伝えてしています。

今なら先行事例が多くありますが、自院のスタイルを明確にして事例を選んだほうがいいと思います。スタイルとは「1人医師体制」か「複数医師体制」かということです。開業してから、成り行きで考えればいいと思うかもしれませんが、ここを成り行きに任せていると行き詰まりやすいと思います。なぜなら、両者では事業運営や経営の方針がまったく異なってくるからです。

私は、やはり複数医師体制を目指すと思います。1人で24時間対応するには限界がありますし、「自分がいなくなっても存続できる在宅医療を地域に提供すること」を理念としているからです。もちろん、1人医師でも他機関と連携しながら在宅医療を行う方法はあるので、良し悪しではなく、どちらを目指すのかということだと思います。
複数医師体制なら、疲弊しない24時間体制のシステム構築も考えなければなりませんが、まずは複数の医師を雇用することから始まります。しかし、患者数が右肩上がりに増えている時期でないと常勤医師の雇用は決断しづらく、医師を増やすにはタイミングがあると言えます。だからこそ、患者増のための営業活動をセットで考える必要があります。ここが経営のターニングポイントだと思います。医師の雇用を決断するにも、人件費増に対応するにも、営業活動による集患がベースだと考え、行動できるかどうかという分かれ道です。

1人体制か複数体制かの方針をあいまいにしていると、ここで行き詰まってしまいます。1人体制と決めていたら、他機関との連携に務め、1人で診られるだけの患者数に絞っておけばいいと思います。しかし、方針があいまいだと、1人で診きれないほどに患者が増えても次の一手が打てません。医師を増やした後のビジョンがなければ、人件費増を負担に感じますし、だからといって、紹介患者を一度断ると、次に紹介されなくなるというリスクもありますので、断るにしても一定の方針が必要になると思います。
1人医師でやっていくと腹を括っているわけではなく、うまくいくなら大きくしたいという思いもある人にとっては、この「患者が増えて経営が軌道に乗りかける時期」に最初の壁が訪れます。ここで判断がつかないために、オーバーワーク状態ながら医師を増やそうとせず、苦労している1人医師の在宅クリニックが多いように感じます。

集患のための営業活動ですが、患者を紹介してくれる病院や居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどを一軒一軒訪問して、クリニックの特長を伝え、患者を紹介してくれるようにお願いします。自分でできないなら、営業ができる人材を雇えばいいですが、私なら開業前後には率先して営業に行きます。21年前の競合がいない時代でも自ら訪問していましたが、今のように地域に競合がいるなら、なおさら自院の特長を自分の言葉で伝えに行くと思います。そして、営業は開業前後だけでなく、継続的に定期的に行うことが大切です。

講師を招聘して、参加費無料の講演会を開催するのもいいと思います。講演会の告知と自院の営業を兼ねて事業所を訪問するのですが、「講演会の告知」という目的があるので訪問もしやすくなります。地域の専門職には喜ばれますし、運営を自院スタッフで行えば、会場で参加者との関係構築も可能になります。

そして、自院のホームページにも力を入れたいです。これは、集患と人材確保に必須のツールなので、情報も常に更新して、取り組みなどを発信し続けることが大切です。「ホームページをきれいに作ると、患者が集まり過ぎて困るからやらない」と言う向きもあるようですが、地域にそれだけのニーズがあるなら応えることを使命と考えて、体制強化を目指すべきではないでしょうか。

開業の志があるなら、目指したい在宅医療の姿もあるはずです。その志は、開業直後から経営に結びつき、やがて理念となって人材獲得や育成、組織風土の礎となり、自院の強みとなっていくことでしょう。まずは自身の志を見つめ直しましょう。この地域で自分が何がしたいのか、何を目指すのかを明確にすることから、すべてが始まると思います。

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