たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第11回 在宅療養なんでも相談室の意義

治療が終了したにもかかわらず、退院したがらない、または一度は自宅に戻ると言ったものの、やっぱりやめると患者が言う場合は、自宅での療養生活に不安があるからだと思います。
例えば、「心身の状態が不安定なまま退院しても、家でやっていけるのだろうか」「夜、身体の具合が悪くなったときはどうしたらいいのだろう」「家だと痛くても我慢しないといけないのか」「今、病院でいろいろな処置をしてもらっているが、家でも同じことができるのだろうか」など、不安の種は限りがありません。しかし、これらの不安がなくならなければ、患者は自宅に戻ることや在宅医療を選択しないでしょう。不安を取り除くには、「患者と家族が、自宅での療養生活がイメージできるまで説明すること」が有効だと私は考えています。24時間対応可能であること、状態に応じて診療や看護の訪問頻度が調整されること、多職種連携のチームでどれだけのサポートができるのか、そしてどれくらいの費用がかかるのかなどをきちんと説明するのです。自宅でも安心して過ごせるということを理解すれば、患者は家に帰る決心がつきやすいと思います。

当院には、在宅医療導入期の患者の不安を軽減し、退院から初診までをスムーズに行うための支援部署「在宅療養なんでも相談室」があります。
新規患者紹介は、この在宅療養なんでも相談室が窓口となって受け付け、患者情報を収集し、課題があれば解決の目処を立て、退院前カンファレンスにも参加します。集約した患者情報を当院の職員や患者に関わる他事業所にも共有して、初診の同行までを行うのです。新規患者にワンストップでサービスを提供する部署です。
この在宅療養なんでも相談室には6つの機能があります。

①外部からの窓口機能
・法人の顔としての窓口
・一人の患者には、継続して同一担当者が関わる
・患者受け入れの進行具合を職員に共有する

②在宅医療導入機能
・在宅医療依頼・相談窓口
・インテークと情報収集
・訪問診療や緊急時の対応、費用徴収などのシステムの説明
・初診同行
・紹介者への情報と経過のフィードバック
・薬局・訪問看護ステーションの選定
・訪問診療担当者へのスムーズな移行

③コーディネート機能
・外来の患者紹介や入院患者紹介への対応
・当院における外来・入院・在宅への移行と調整機能
・同法人、または他事業所との多職種サービスの調整
・紹介された患者の経過や看取りの様子を紹介者に報告
・生活保護等、行政関係者との調整

④相談機能
・病院や地域からの在宅医療に関する相談対応
・クレーム対応
・困難事例への相談と対応

⑤理念体現機能
・患者本位を貫く当法人の理念を体現する
・相談業務を日々こなす中で、理事長と同じ理念を身につけている
・本人の支えや大切なこと、人生観や価値観を把握し、意思決定支援を実践していく

⑥営業機能
・患者紹介先への定期訪問
・当法人主催の研修会などの告知案内

なお、この在宅療養なんでも相談室は、当院の利用につながらなくても親身になって相談に乗ることをモットーとしていて、フリーダイヤルも設置し、ホームページでも紹介しています。そのために月に数回は県外から相談の電話がかかってきています。
この在宅療養なんでも相談室は、看護師と医療ソーシャルワーカーで構成され、医療的な申し送りや情報収集は看護師が担当し、システムや費用の患者への説明、保険情報の収集、初診までに必要なカルテ作成等の事務関連の処理、そして生活上の課題解決も医療ソーシャルワーカーが担当します。
例をあげると、看護師は、現在の医療処置を確認し、在宅に適した医療処置や材料に変更できないか検討して手配します。さらに、それらの情報を診療スタッフや訪問看護事業所と共有するまでを行います。そして、介護力不足や経済的な課題は、医療ソーシャルワーカーが行政やケアマネジャーと相談して解決していくといった感じです。

この部署のメリットとして次の3つが挙げられます。

①患者・家族にとっては、問い合わせ時から関わったスタッフが、初診時まで支援してくれるために不安が軽減される。
②訪問診療を行うスタッフにとっては、患者の病気のことだけでなく、プロフィールや病気以外の課題、果ては患家の駐車場所までわかった上で初診を行える。
③専門部署があることで、新規患者の紹介のハードルが下がる。病院の地域連携室や訪問看護師は同じ看護師に情報が伝えやすいし、連携室のソーシャルワーカーやケアマネジャーは医療ソーシャルワーカーに相談しやすい傾向がある。連携先にとっては、「とりあえず、相談してみよう」という部署になる。

患者・診療スタッフ双方の導入期の不安を少しでも軽減させたいという考えから生まれた部署でしたが、退院支援だけを行うのでなく、理念体現や営業機能を持たせることで、連携先にも当院の姿勢が認知され、結果的に紹介患者も増えました。在宅医療で大切にすることは時期によって異なりますが、導入期はとにかく、「不安を取り除くこと」です。初診よりもっと前から、やることがあるのです。

【今日の3つのポイント】
・在宅医療導入期で大切なのは、不安を取り除くこと
・患者や家族が療養生活をイメージできるまで説明する
・退院支援を専門に行う部署やスタッフを作る

関連動画 困難事例にどう対応するか?