たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第12回 患者さんに医療費が高い!と言われたらどうしますか?

在宅医療は外来通院と入院医療の中間にあたる第3の医療と言われますが、医療費の観点からみても外来と入院の中間にあたります。そのため、外来から在宅医療に移行した患者にとっては、「在宅医療は高い」と感じることがあるようです。同時に在宅介護が始まった場合は、医療機関への支払いだけでなく、薬局や訪問看護ステーション(医療保険給付の場合)、介護保険の自己負担分と支払い先が多くなるために余計に割高に感じてしまうのかもしれません。年金暮らしなどで経済的な余裕がない患者の中には、支払額を少しでも減らしたいからと訪問診療や看護の訪問回数を減らしたり、不可欠なサービスや福祉用具の導入にも消極的になったりする人もいるくらいです。

患者の経済的な悩みを軽減できるよう、在宅医療導入時には支払いが基準額以上になった時に超過分の費用が償還される公的制度、例えば高額療養費制度や限度額認定証の取得、高額医療・高額介護合算高額療養費制度、高額介護サービス費制度などについてあらかじめ説明しておきましょう。独居や老老介護で本人たちで手続きが難しい場合は支援の手も差し伸べたいものです。また、同居する家族には医療費控除にオムツ費用が含まれることや同居特別障害者控除などの税控除についても説明しておくと喜ばれます。ここまでは事務スタッフで対応できる医療費軽減対策です。

医師として考えたい医療費助成制度があります。身体障害者手帳や重度心身障害者医療助成でのことですが、その適用患者を見逃していないでしょうか。在宅医療患者の多くは通院困難で、寝たきりや準寝たきりの人であると思います。肢体不自由などの障害を有する患者が多く、大半の患者が身体障害者手帳の交付対象となります。視覚障害・平衡機能障害・肢体不自由など、身体障害者福祉法で定められた障害を有する場合、都道府県や市町村の認定を受けると、身体障害者手帳が交付されます。特に重度であれば、重度心身障害者医療費助成制度(重心医療)の対象となり、患者の医療費自己負担がかなり軽減されます(自治体によって自己負担割合は異なります)。身体障害者手帳の保持者は医療費助成だけでなく、交通機関の利用料金の割引や税金の控除などもあります。障害者手帳は、傷病による障害でないと申請できないと誤解されがちですが、加齢に伴う疾患であっても治療終了後に機能障害が永続すると医師が判断した場合には、身体障害者手帳の申請が認められています。

たんぽぽクリニックでは、自治体の定めた基準に沿って公平・平等に認定を行い、身体障害者手帳が取れる方にはきちんと案内し、申請をしてもらっています。その結果、患者の7割以上が重心医療の対象となっています。患者の中には、「自己負担分まで公費で出してもらうのは、申し訳ない」と言われる方もおられますが、障害を持つ患者に対しては社会が責任を持って援助していくべきであり、行政が定めた一定の基準に沿って、公平・平等に制度を利用していけばよいと思うのです。

ただ、身体障害者手帳をむやみに発行すると公費負担が増え、医療財政に悪影響を与えるから安易に申請すべきではないと考える医師もいると聞きます。しかし、財政を破綻させないための対策は個人レベルで調整する問題ではないと思います。それに医師の個人的判断で「調整」された患者は、本来なら利用できる制度にもかかわらず、利用できないという深刻な問題も生まれます。

私が2011年の東日本大震災の被災地支援に赴いた時の話ですが、在宅医療があまり普及していない自治体に行った際、身体障害者手帳の交付を受けていない人が目立ちました。地域の医師も積極的に申請手続きをしていないように見えましたが、その地域では被災前から、経済的な理由で訪問診療や介護サービスの利用を控える利用者が多かったと聞いています。マクロ的観点で考えれば、障害者手帳を交付されることにより自己負担が減るのであれば、退院して在宅医療を選択がしやすくなることも考えられます。それにより退院が促進され、入院医療費や社会保障費全体の伸びを抑制することにもつながる可能性もあると思うのです。 患者が利用可能な制度は適切に利用して、患者の経済的負担を少しでも軽減させて必要な医療が受けられるよう支援するのも、医療機関の務めだと考えます。

今日の3つのポイント
①在宅医療導入時に患者や家族が利用できる各種の制度を案内しよう。
②加齢に伴う疾患であっても身体障害者手帳の申請が認められている。
③在宅患者の多くは障害者手帳が交付されるレベルの身体障害を有しているので、適正に申請をしよう。

関連動画 患者さんに医療費が高い!と言われたらどうしますか?