たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第16回 訪問看護ステーションを軌道に乗せるには

今回は経営母体が医療機関ではない場合の訪看開設・経営についてお話ししたいとと思います。住民が高齢化し、地域包括ケアシステムが推進される今、訪問看護のニーズは大きく、成長が期待される分野であり、開設のハードルも比較的低いです。
しかし、事業を継続させることは難しく、私の知人にも独立開業した看護師が何人かいますが、そのほとんどが数年で廃業しました。訪看の運営は在宅専門クリニックと似ている部分が多く、私もいくつもの失敗を乗り越えてきたのでわかりますが、廃業に至った訪看には共通点があるようです。訪看、そして在宅クリニック運営成否のポイントはフェーズによって異なりますが、まずは開業前後に最低限やっておくべきことを5つに絞って説明します。

私が幸運だったのは、在宅専門クリニックが珍しい頃に開業した先発組だったことです。地域に一つしかないから目立ち、「とりあえず一度使ってみるか」と地域の病院やケアマネジャーに思ってもらえました。しかし、訪看を今から開業するなら当然、後発組です。地域には、競合する既存訪看が何社もあるでしょう。まずは開業予定地域の分析をしっかり行い、その結果を踏まえて自社の強み・特長を打ち出すことが大切です。
高齢者人口、居宅介護支援事業所数、診療所数、競合訪看数とその特徴、また訪問エリアの設定とそのエリア内の移動手段も考えた上で開設地を選びたいものです。地域に足りないもの、今後必要とされるものまで分析できればしめたもので、それを自社の特長にできないか考えてみることです。
私が知る成功している訪看は、男性看護師が複数いる、困難事例でも断らない、スタッフが多く在籍し、1日に複数回の訪問も可能、小児ケアを専門とするなど、必ず何かの特長があります。認知活動(営業)には自社の特長や強みがあったほうが有利ですし、特長の裏付けとなる思考は、職員と共有すべき理念づくりにもつながっていきます。

看護師が開設者兼管理者となって開業する場合に多いのですが、設立基準の常勤看護職2.5人で開業すると失敗の元です。管理者は経営者でもあるにもかかわらず、人員不足から現場に縛られてしまい、経営全般のことに手が回らなくなるからです。それに当番体制にも支障が出て、無理な当番が続くことで職員が疲弊し、退職につながります。経営が不安定では、採用活動も思うようには進まないはずです。
認知活動にも影響が出ます。開設当初は必死になって居宅介護支援事業所や診療所、病院に挨拶に行くのですが、業務に忙殺されて継続的な活動ができなくなります。認知活動を疎かにすると紹介患者が増えず、経営が不安定になりますが、それでも認知活動に当てる時間が作れないというジレンマに陥ってしまいます。前述の小児ケアを特長として成功した訪看の管理者は、NICUのある小児科病棟を頻繁に訪れ、在宅復帰の課題を病院スタッフと共に解決するなどの精力的な取り組みをしていました。医療機関がバックにない訪看の場合、認知活動による集患が必須なので、管理者には認知活動ができる余裕がほしいのです。廃業した訪看を見ると、人員に余裕がないことの悪循環で失敗するケースが多いように思います。先を見据えた組織・体制づくりを開業前から考えたいものです。

介護事業所や施設など経営母体がある訪看でも、人材確保の問題は大きいのです。看護職がやりがいを感じる職場を作るためにも「理念」を大切にしてほしいと思います。理念が浸透している組織は仕事の質が高く、それに惹かれて良い人材が集まります。「理念」の確立や職員への浸透は、遠回りに見えますが組織を強くする一番の要因となります。また、業務のICT化で業務を効率化することは、職員の負担軽減になりますし、若い人材へのアピールにもなります。これは在宅クリニックの発展のためにも欠かせない重要事項です。
訪問看護のニーズは確実にあります。やり方さえ間違わなければ、発展もするし、「なくてはならない存在」として地域に根付いていくはずです。

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