たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第23回 新規患者問い合わせのノウハウ

当院では、毎月30人から40人、年間で500人の新規患者が紹介されてきます。訪問診療の新規相談は、主に医療機関、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、施設などの関係専門機関から多く寄せられます。
そこで、当法人では、「在宅療養なんでも相談室」という部署を設け、看護師と医療ソーシャルワーカーを配置し、対応の一貫性を高めると共に、増加する相談件数に効率的に対応しています。問い合わせから診療開始まではクリニックのスタッフが調整の対応をします。訪問診療を提供するクリニックを選定する際、窓口の初対応の質は非常に重要です。このため、今回は効果的な問い合わせ対応のノウハウを紹介します。

1. アクセスしやすい相談部門の設立
新規の相談は医療機関、訪問看護ステーションだけでなく、ケアマネジャーや施設など介護事業所、または家族や患者本人からも寄せられます。介護事業所や患者・家族は医療機関に直接問い合わせをすることに心理的なハードルを感じるという声も多く寄せられました。そこで当院では、患者とその家族が直面する在宅医療のニーズに対応するため、広範な問い合わせに対応できるよう「在宅療養なんでも相談室」を設けました。
この部署は、問い合わせから、患者家族の状況のアセスメント、関係機関とサービス調整、初診同行まで一貫したマネジメントを行います。入院している患者については退院後の療養に関する不安や疑問に対応し、患者や家族が希望するニーズに合わせて在宅療養を開始するための支援を行います。また、訪問診療の利用の希望の有無にかかわらず、患者が自宅で療養する際の不安や人工栄養について、退院に向けての相談にも応じます。今では全国から様々な相談を承るようになっています。このような取り組みは、地域のニーズに応えて在宅医療の啓発や普及する活動の一環です。

2. クリニックの理念に基づいた対応ができる人材配置
問い合わせの段階でどのように対応し、マネジメントするかはクリニックの印象を決める重要な場面です。当院では、クリニックの理念を具体化したクレドを策定しています。このクレドは、患者さん一人ひとりのニーズに対応するための行動指針として機能し、すべてのスタッフが共有しています。相談室のスタッフはこの理念に沿って患者さんとその家族に寄り添いながら、それぞれの患者に最適な在宅医療の導入や支援体制について関係機関と連携しながらマネジメントを行います。相談室のスタッフはクリニックの理念をもとに対応することで、相談支援の質の向上や均一化にもつながっています。

「クレド」はゆうの森ホームページ内で公開しています。

3. ソーシャルワーカーと看護師の配置
在宅医療の実施には、医療的な側面だけでなく、患者や家族の社会的、心理的なニーズにも対応することが必要です。特に経済的に困窮している方や介護する家族に障害がある患者、または身寄りがない独居の患者など、社会的な支援が希薄となっている方への支援が不可欠です。
当院では、これらの複雑なニーズに効果的に対応するためにソーシャルワーカーを配置しています。ソーシャルワーカーは、患者さんや家族が抱えるさまざまな問題に対して、適切なサービスやリソースを案内し、必要な支援を提供します。また、地域社会との連携を深め、患者さんが地域社会内で支援を受けやすい環境を整えるための役割も担っています。看護師とソーシャルワーカーを配置することで、それぞれの専門性を活かし、患者さんが自宅で安心して生活できるよう、総合的なサポートを提供しています。

4. 情報共有ツールとデータ分析の活用
当院では、新規患者の問い合わせ管理にクラウドベースの情報共有ツールを導入しています。このツールを通じて、患者さんからの問い合わせ内容や調整の進捗状況をリアルタイムで共有し、多職種のスタッフ間での情報の透明性を保ちながら迅速な対応を実現しています。このツールを使うことで、担当職員が休みだと対応できないという問題を解消し、チームで対応することが可能です。
さらに、このシステムはデータ収集と分析機能も備えており、収集したデータを基に紹介先、紹介数、紹介患者の癌・非癌の割合などを分析し、効果的で効率的な運営戦略の策定に活用しています。例えば、特定の紹介先が減少している場合は、訪問での情報交換や連携先のニーズに合わせた研修会の開催、広報ツールによる情報発信など、現状を分析し目標に合わせた取り組みを行っています。

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