たんぽぽコラム

おうちでの看取り

著者:永井康徳

  

第3回 本人の気持ちに思いを馳せる

日々、在宅で療養する患者さんやそのご家族に関わらせていただきながら考えることがあります。患者さん自身が自分の意思を伝えられず、本人に代わってご家族等が重大な選択を迫られる時のことです。
たとえば食べられなくなった時、胃ろうにするのか、しないのか。最期まで点滴を続けるのか、延命治療は受けるのか。そしてどこで療養するのか。これらの選択の判断基準は、医師の見解でしょうか?ご家族の思いでしょうか?それとも社会の風潮でしょうか?

こんな時、ご家族は大切な方にはどんな状態になっても生きていてほしいと願うばかりに、ついその気持ちが優先されてしまいがちです。しかし、ご本人は何を望んでいるのかを最優先に考えることが大切です。そして、入院してとことん治療する選択肢から、自宅などで自然に生き終える選択肢まで、関係する人たちと十分に話し合ってください。その人のいのち、人生なのですから、できればその人自身の価値観に沿った選択ができるといいと思います。

本人の支えや生き方、これまで大切にしてきたことをふまえ、「もし話すことができれば残りの人生をどんな風に生きたいと言うだろう?」と、本人の価値観を尊重して納得のいく選択ができるよう支援するのが私たちの役割です。
私たちは、本人に代わって意思決定するご家族の重荷にも配慮しながら「気持ちは揺れてあたりまえ、それでいいんですよ」と伝え、話し合いを重ねます。
一人一人にとって最善は異なり、その人にとっての正解は誰にも分からないと思います。だからこそ、出した「結論」がよい選択だったと思えるよう、医療者もご家族等と一緒に悩んで話し合うこと。実はこの「過程」がとても重要なのです。

療養の場所や治療方針で迷った時に、本人が意思決定できる状態であれば、私はこう尋ねます。「これからできる限りの治療をして一分一秒でも長く生きたいと思いますか?それとも、治療よりも楽になることを優先して、穏やかに過ごしたいと思いますか?」と。後者の答えならば、自宅や施設での療養や点滴をしない自然な看取りという選択肢もあるでしょう。ご本人が意思決定できない状態であれば、ご家族や友人が、その人が大切にしてきたことを思い起こし、ご本人の意思を代弁してあげてください。

ご家族が長生きしてほしいと思う気持ちは当然のことです。しかし、人生の主人公は本人です。どのような人生の最期を迎えたいと思っているのか、本人の気持ちに思いを馳せてみましょう。

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人生の主人公は本人です。ご本人は何を望んでいるのかを最優先に考えることが大切です。