たんぽぽコラム

おうちでの看取り

著者:永井康徳

  

第16回 意思決定支援に重要な5つのポイント

2018年4月の診療報酬改定で厚生労働省から「人生の最終段階における医療、ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が公表され、病診、施設、在宅でこのガイドラインに沿ったターミナルケアの実施が求められることになりました。私はこの公表以前から、意思決定の上で大事だと思う5つのポイントを提唱してきました。
私たちは、高齢者や末期のがん患者、小児患者の在宅療養を支援していますが、亡くなる前に、自宅で人工呼吸器を装着するのか、延命治療や胃ろう、気管切開をするのかなど、重要な意思決定をしていきます。まさに毎日が「人生会議」そのものといってもいいでしょう。患者さんの命に関わる大切な決定を、どのように支援しマネジメントできるかが、医療者に問われていると思います。

私が意思決定の上で重要だと思っていることは次の5つのポイントです。

① 本人の意思が最優先で、本人が意思表示できない場合、人生観や価値観、本人の支えを知るご家族が「本人が正常に判断できたら何と言うか、どう生きたいと思うか」を考える。家族は長生きしてほしくても、その命は本人のものだから、何を望むかに思いを馳せて考えていただく。「最期に本人が望んでいた通りにしてあげられた」と思えるほうがご家族も納得できると思います。

② 従来は最期まで治し続ける医療が主体でしたが、現在は、国も「治す医療」から「支える医療」への方針転換を進めています。高齢者の中には、「もう十分生きたし、治療でつらい思いをせず、食べたいものを食べて楽に死にたい」と考える人も少なくありません。「治療をしない」という選択も1つの権利だと思います。一人一人最善は違うからこそ、あらゆる選択肢を提示し、その方にとっての最善の選択を一緒に探すことが大切だと思います。

③ 親族で1番の決定権を持つキーパーソンが意思決定をする場にいなかったり、その場に参加していなかった人が、後になって「私はそんな話は聞いていない」となってはダメなのです。そこにいる人だけで勝手に決めるのは後悔につながります。ご本人に関わる全ての人を巻き込んでいかなければならないと思います。

④ これは私が1番大切だと思っていることです。当事者や家族が大事な命をどうするかという大きな決断をしなければならない時、迷うのは当然です。決断は何度変わったっていい。「悩んでいいんですよ」と医療者がしっかりと伝えることです。支援者自身も繰り返し迷い、一緒に考えていく。人工呼吸器を付けないと言っていた人が、急に呼吸困難になり、やはり付けたいと希望してもいいですよね。エンディングノートで延命しないと宣言していた人が、その時になってやはり延命すると決めてもいいと思います。「前に点滴しないって言ったじゃないですか」ではなく、「いいんですよ、揺れ動くのは当然です」と、患者さんの気持ちは何回も何十回も変わってもいいから、一緒に考えるスタンスが大事なのです。患者さんやご家族の揺れる気持ちに寄り添い、「迷っていい」という声かけをしてあげてください。

⑤ 患者さんやご家族に寄り添って選択を支援し、結果的に自宅で看取る場合も病院で看取る場合もあるでしょう。点滴をする場合も、しない場合もあります。家で看取った患者さんのご家族があとで挨拶に来られ、「悪くなった時に入院した方が良かったのか?」と聞かれた時に、「その時にみんなで考えて最善の選択をしたから、これでよかったんですよ。」と声をかけられることが大事です。その人にとって何が正解かはわかりません。それでもみんなで迷って一緒に考えた後に、「これでよかった」と思えるプロセスを踏んでください。つまり、結果よりもプロセス(どれだけ寄り添って支援できるか)が大事だということです。

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