たんぽぽコラム

おうちでの看取り

著者:永井康徳

  

第32回 本人への告知シリーズPart2「患者本人の思いを置き去りにしない告知」

今回は、本人への告知シリーズ第2回「患者本人の思いを置き去りにしない告知」というテーマです。

ある男性が病院で進行癌ステージ4と診断されました。食事が取れずに中心静脈栄養が開始されました。高カロリー輸液が1500ml毎日入っています。本人は食べたいけれど食べ物を目の前にすると食べられないということです。
本人が自宅へ帰りたいという希望が強く、病院にて退院時カンファレンスが行われました。病院主治医から、事前に本人には癌は告知しているが、もう積極的な治療ができないことは話しておらず、食事がまたとれるようになったら、治療をしたいと思っていると思うとの話がありました。
そして、病院側の関係者や在宅側の関係者、家族とでカンファレンスを始めようとすると、ご本人が車いすで点滴台を持った看護師と共に現れました。会議に自分も参加したいとのことで、急遽、本人が参加しての退院時カンファレンスとなりました。カンファレンスでは本人の思いを中心としたカンファレンスとなりました。

本人の思いや判断は明確でした。本人の一番しんどいことは食べられないことで、本人の希望は自分が大切に作っていた畑の野菜が気になるので一度家に帰りたいということでした。病院主治医からは、通過障害やイレウスはないが、食べられなかったので、高カロリー輸液を入れたとのことでした。私は本人の食べたいという思いややりたいことを叶えるためにも輸液量を減らすことを提案しました。そして、カンファレンスでは本人の思いを中心に、在宅でどのような体制がとれるか、どう本人の希望を叶えるかということを主体に関係者で話し合いました。カンファレンスとしては本人の思いに寄り添った良いカンファレンスだったと思います。ただ、カンファレンスが終了した後、私にはわだかまりが残りました。これでいいのだろうかと。病院主治医は本人への告知について向き合って話をしていないが、ご家族はどう思っているんだろうか?ご本人はこれで後悔しないのだろうか?

本人が病室に帰った後、ご家族に私からお話ししました。本人には病名告知はしているが、病気が治らないことや限られた命であることは話しておらず、食べられるようになったらまた治療したいというような前向きな気持を持っています。
これから自宅での療養をしていきますが、本人に状況を説明せずにいくと、嘘をつくことになり、周りに壁ができて、本当のことをしゃべれずに亡くなっていきます。死にしっかりと向き合えば、本人がやりたいこともできますし、家族も本人と包み隠さず、本音で話すことができます。本人の意思を確認せずに亡くなった時、亡くなった後で、本当は本人はどう思っていたんだろうと思い悩むご家族もたくさんおられます。
今、本人はしっかりと判断できるので、自宅に帰ってから限られた命に向き合って、亡くなるまでどう生きたいのか本人に確認しませんかとお話しすると、ご家族にもわだかまりがあったらしく、皆そのとおりだと涙を流しながら納得してくれました。

医療者が死に向き合わないと患者もご家族も向き合えないですよね。どのように死に向き合うか、日々、人生会議です。

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