著者:永井康徳
「お父さん、楽しかったね…」
そう笑顔で話してくれたのは、父ヒデオさんを在宅で看取ったアキコさん。
たんぽぽクリニックとの出会いは、数年前。
母の介護をきっかけに、在宅医療という選択肢を知りました。
「介護は家族でがんばるもの」と思い込んでいた当時の自分に、支えてくれる存在がいることを教えてくれたのが、在宅医療でした。
その後、94歳になる父・ヒデオさんの訪問診療が始まりました。
肺炎や心不全を繰り返しながらも、「入院せず、自宅で過ごしたい」という本人の願いを叶えるため、アキコさんは毎日の介護に工夫を凝らしました。
リハビリや栄養指導、嚥下体操や手料理。
訪問看護や歯科、マッサージなど、多職種が連携しながら支える毎日は、ヒデオさんにとっても、アキコさんにとっても、穏やかで幸せな時間になっていきました。
あるとき、学生から「幸せを感じるときは?」と聞かれたヒデオさん。
「娘とやり合ってるときかな」と笑って答えたそうです。
特別なことがなくても、晩酌や映画、野球観戦。そんな日常のひとコマが、生きる力になっていました。
「母のときには"ごめんね"が多かったけど、父のときには"ありがとう"があふれていた」
アキコさんは、そう振り返ります。
そして迎えたお別れのとき。
在宅医療を通じて、父を自宅で看取れたことは、自分自身にとっても大きな救いになったと語ってくれました。
「在宅医療は、本人のためだけではなく、残される家族の心にも光を灯してくれる」
「老いることが苦痛ではなくなる。最期まで希望を持てる」
ヒデオさんとの3年間は、アキコさんにとって宝物になったのです。
在宅医療という選択肢は、特別なものではありません。
それぞれの専門職が連携し、「その人らしい暮らし」を支える。
それが、本人だけでなく、ご家族にとっても、かけがえのない時間をつくり出すのです。
ヒデオさんとアキコさんの物語が、在宅医療のあたたかさを私たちに改めて教えてくれました。