たんぽぽコラム

おうちでの看取り

著者:永井康徳

  

第51回 最期の3日間

「最期の3日間だけでも仕事を休んで看ることは可能ですか?」。在宅医が家族に投げかけるこの問いは、看取りの現実を端的に表しています。多くの家族が長期間の介護に不安を感じる中、死期を明確に伝えることで新たな選択肢が生まれます。「一番大切なこと」を見極める瞬間でもあります。

薬剤師として働くミヨコさんも当初、「仕事があるので自宅での看取りはできない」と答えていました。肺がん末期の母親は施設と病院を行き来し、最期は病院でと考えられていました。しかし医師の「排尿がなくなれば3日で亡くなります」という説明により、状況は一変します。死に向き合うことで、それまで見えなかった道筋が明らかになったのです。

自宅に戻った母親は、ミヨコさんの「家に戻ったよ!」の声に視線を向け、安心した表情で手を握り返しました。忘れられない笑顔でした。制限だらけの病院とは違い、家族や孫たちと自由に過ごせる貴重な時間でした。まさに3日後、母親は静かに旅立たれました。後にミヨコさんは「最後に自宅に連れて帰るという選択ができて良かった」と振り返っています。

死期を曖昧にせず正確に伝えることで、家族は覚悟を決め、限られた時間の中で最良の選択ができます。自宅での看取りは、死と向き合った者だけが選択できる、かけがえのない道なのです。納得のいく自宅での看取りを通じて、家族もまた新たな歩みを始めるのです。

関連動画 最期の3日間