たんぽぽコラム

おうちでの看取り

著者:永井康徳

  

第53回 家族で意見が違う場合、どうする?

在宅医療の現場では、次のようなことがよくあります。
お父さんとお母さんは『最期は自宅で穏やかに』と決めていた。しかし、久しぶりに帰ってきた娘さんが『お父さん、こんなに痩せて!すぐ入院させて!』と言い出す...
あるいは、ずっと介護してきたご家族は本人の気持ちをよく理解している。しかし、遠方に住む兄弟が『もっと治療を!』と主張する...

こういった家族間の意見の食い違い、皆さんのご家庭でも起こりうることなのです。今回は実際のケースをもとに、どう対応すればいいのかお話しします。

なぜ家族で意見が分かれるのか?
実は『介護への距離感』が大きく関係しているのです。
遠方の家族は、久しぶりに会った親の変化に驚き治療を求める傾向にあり、医療の世界では『カリフォルニアから来た娘症候群(Daughter from California Syndrome)』と呼ばれています。

遠くに住んでいて、久しぶりに会ったら親の様子が激変していてビックリ。『何とかしなきゃ!』と思うのは当然です。
しかし、毎日そばにいるご家族は、少しずつの変化を見ているから、本人の気持ちや生活のリアリティがわかっている。
この『距離感の違い』が意見の違いを生むのです。

実際のケース紹介
[ケース1]
75歳のトオルさん。がんの進行で食事が摂れなくなりました。しかし、ご本人とアケミさん(奥様)は人生会議を重ねていて、『点滴や人工栄養はしない。自然な形での看取りを』とはっきり決めていたのです。
ところが、遠方に住む娘さんが久しぶりに帰省して...
『お父さん、こんなに痩せて!点滴もしてないの!?お母さん、介護を放棄してるんじゃないの!?』
娘さんは役所に『ネグレクト(介護放棄)の疑いあり』と通報までしてしまったのです。 私たち医療チームは娘さんに丁寧に説明しました。

• 現時点で栄養を入れても元気になる可能性は低いこと
• 点滴がかえって苦しみを増やす可能性があること
• トオルさんとアケミさんがよく話し合って決めたこと

しかし娘さんは『高カロリーの点滴をしてください!』と言うのです。
そこに、ハワイから息子さんが帰国しました。
息子さんは半年前に帰省したとき、お父さんから『最期まで家で過ごしたい』という話を聞いていて、両親の意思を理解していたのです。
つまり、早い段階から家族全員で情報共有していたかどうかが、大きな違いを生んだのです。
最終的にトオルさんは希望通り、自宅で穏やかに旅立たれました。

[ケース2]
レイコさん(93歳)本人と、ずっと介護してきた次女さんは『自宅で看取りたい』。しかし...

• 長女(広島)『大変だから入院させたい』
• 長男(大阪)『入院して長生きしてほしいが、本人の希望もかなえたい』
• 三女(大阪)『自分は看れないので、みんなに従う』

見事にバラバラ!
こういうとき、どうすればいいのでしょうか?

5つの対処法
私の経験から、家族間の意見調整で大切なポイントを5つお伝えします。

① 介護への距離感が意見の方向性を分ける
→ これを理解しておくだけで、『なぜあの人はそう言うのか』がわかります

②遠方の家族は変化を受け入れにくい
→ 驚くのは当然。感情を否定せず、丁寧に説明することが大切

③方針決定は早めに、家族全員を巻き込む
→ レイコさんのケースでは、病院と在宅医療チームで早めにカンファレンスを開きました。
→ 遠方のご家族も、オンラインで参加してもらいましょう

④『見える選択肢』と『共有の場』を作る
→ レイコさんのケースでは、3つの選択肢とそれぞれの余命の見込みを明示しました
 1. 入院して治療に専念 → 余命不明
 2. 中心静脈栄養を継続して自宅 → 余命1-2ヶ月
 3. 栄養を中止して自然に → 余命約1週間 → これで、みんなが同じ情報をもとに話し合えます

⑤何よりも、本人の意思を最優先に
→ 意見が分かれたときこそ、立ち返るべきは『本人がどう生きたいのか』
→ その尊厳と希望を中心に、家族や医療者が支える

家族で意見が違うのは、決して珍しいことではありません。 むしろ、それぞれが大切な人を思うからこその違いです。
大切なのは以下のとおりです。

人生会議(ACP)は、まだ元気なうちから、できるだけ多くの家族を交えて行うことが本当に大切です。
そうすることで、いざというときに『お父さん(お母さん)はこう言っていたよね』と、家族みんなが同じ方向を向けるのです。
皆さんのご家族では、『もし』のときの話、できていますか? まだなら、ぜひご家族で話し合ってみてください。

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