たんぽぽコラム

在宅医療の制度の知識

著者:永井康徳

  

第10回 たんぽぽ先生が選ぶ 在宅医療インパクトランキングトップ10【第4位】

2026年診療報酬改定インパクトランキング、第4位を発表いたします。


第4位 往診専門コールセンター問題と、在宅療養支援診療所の24時間体制の見直し

「夜中に来た先生、うちのお父さんのことを何も知らなかった」――こんな声を患者家族から聞いたことはないでしょうか。
これは在宅医療の根幹に関わる問題です。今回の改定で、制度がこの問題にはっきりとメスを入れました。順を追って解説していきます。

1. 往診専門コールセンターとは何か

まず、「往診専門コールセンター」という仕組みを知っておく必要があります。
これは、夜間・休日の往診対応を専門の民間コールセンターに委託するサービスです。患者さんや家族から電話が入ると、コールセンターがその連絡を受け、契約している外部の医師を派遣して往診させます。
在宅療養支援診療所は、24時間対応できる体制を持つことが施設基準の要件になっています。このコールセンターを使えば、形の上では「24時間往診体制あり」と届け出ることができる。それが広がった背景です。

医師不足の中で、一つの診療所が365日24時間すべて自力で対応するのは非常に大変です。連携や外部委託の仕組み自体を全否定するつもりはありません。
ただ、問題はその中身です。

2. 何が問題なのか――「患者を知らない医師」の往診
コールセンターが派遣する医師は、その患者さんのことをまったく知りません。
かかりつけ医でも、日頃から訪問している医師でもない。患者さんの病歴も、治療方針も、本人が最期についてどんな希望を持っているかも、家族との関係も、何も知らないまま、夜中に初めてその家のドアを開ける。
これは在宅医療の本質と根本的に矛盾しています。

在宅医療の核心は何でしょうか。それは「継続的な関係性の中で、その人らしい生き方・最期を支えること」です。患者さんが安心して夜中に電話できるのは、「あの先生なら来てくれる、わかってくれる」という信頼があるからです。
見ず知らずの医師が夜中に来て、とりあえず点滴をして帰る。これは「夜間往診代行サービス」であって、在宅医療とは呼べません。
しかも、緊急往診加算などの高い報酬が算定され、コールセンターを通じた多重のコスト構造の中で、質の担保がないまま医療費だけが膨らむ構図が問題視されてきました。

さらに深刻なのは、患者さんが望まない救急搬送につながりやすいという点です。患者さんのことを知らない医師は、判断に迷えば救急車を呼びます。「最期は家で」という本人の意思が、夜中の一度の往診で覆されてしまうことが実際に起きてきました。

3. 制度が形骸化していた背景――「名ばかり連携型機能強化型」の問題
この問題の背景に、在宅療養支援診療所の連携型機能強化型の仕組みがあります。
機能強化型在支診には、単独型と連携型があります。連携型は、複数の診療所が連携して24時間体制を確保するものです。本来の趣旨は理にかなっています。一つの診療所だけで365日24時間対応するのは医師の負担が大きすぎるから、連携して支え合いましょうということです。

ところが、連携型の届け出をしながら、実態はコールセンターに夜間対応を丸投げして、自院の医師はほとんど夜間対応をしないという「名ばかり機能強化型」が生まれてしまいました。
連携型機能強化型として届け出ているだけで、単独型と同等の最上位加算が算定できる。これが制度の抜け穴になっていたのです。

4. 今回の改定で何が変わったか
今回の改定では、この問題に対して大きく2つの見直しが行われました。
①連携型機能強化型在支診の2類型への分割
これまで一本だった連携型機能強化型が、上位のイと下位のロに分かれました。
イ、つまり上位類型は、自院の医師により時間外往診体制を一定時間確保している施設です。この類型は、緊急往診加算850点などの最上位加算を引き続き算定できます。
ロ、つまり下位類型は新設で、連携のみで24時間往診体制を確保している施設です。こちらは最上位加算は算定できません。
自分たちで夜中も対応しているクリニックと、コールセンター任せのクリニックが同じ加算を得ていた不公平が、ここで是正されます。

②24時間体制の外部委託要件の厳格化
コールセンターを利用する場合、そのコールセンターからの連絡を24時間受ける体制を診療所が確保することが必須になりました。コールセンターに投げたらあとは知らない、という丸投げは制度上認められなくなります。
そして最も重要なのが、外部往診医に関する要件です。外部の医師に往診を依頼する場合、往診日以前に自院の在宅医療担当常勤医師と事前面談を行い、診療方針等を共有した医師に限ると明確に定められました。
患者さんのことをまったく知らない医師が夜中に派遣される、という事態が制度的に排除されます。これは非常に大きな変化です。

6. 真面目にやってきた在支診への評価
この改定を通じて、私が最も伝えたいメッセージです。
夜中でも自分たちの患者さんのために出ていく。名前を知っている、顔を知っている、どういう人生を歩んできたかを知っている。そういう在宅医療をずっと続けてきた先生方が、今回の改定でようやく正当に評価される体制になります。
在宅医療は「顔の見える医療」です。患者さんが「あの先生に看てもらいたい」と思える関係性こそが、在宅医療の本質的な価値なのです。
制度が、その価値にようやく正面から向き合い始めた。それが今回の第4位のインパクトだと私は思っています。

7. 終わりに
「患者を知っている医師が、患者の意思を知った上で夜中に対応する」――これが当たり前の在宅医療になるよう、制度も、そして私たち現場も変わっていきましょう。

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