著者:永井康徳
このたび、『たんぽぽ先生の在宅報酬算定マニュアル 第9版』(日経BP)が発刊されました。今回はもちろん、2026年度の診療報酬改定に完全対応した最新版です。
このマニュアルは、おかげさまでシリーズ累計10万部を超えるロングセラーになりました。手に取ってくださった全国の皆さんに、心から御礼を申し上げます。本当にありがとうございます。
私がこの本を、診療報酬改定のたびに、十数年にわたって改訂し続けているのには、はっきりとした理由があります。
それは、複雑な在宅医療の制度を正確に理解することが、私たち専門職の責務だと考えているからです。在宅医療の報酬の仕組みは、年々複雑になっています。でも、ここから目を背けるわけにはいきません。なぜなら、私たちの知識の欠如は、そのまま患者さんの不利益に直結してしまうからです。
私は、患者さんにとって、「医療者の無知は罪だ」という強い思いを持って、日々の仕事に向き合っています。算定の知識は、単なる事務の話ではありません。制度を正しく理解しているからこそ、目の前の患者さんに、受けられるはずのケアを、過不足なく届けることができる。報酬を学ぶということは、患者さんを守るということなのです。
今回の改定では、「在宅医療充実体制加算」が新しく設けられました。その厳しい施設基準を満たせなければ、これまで算定できていた加算が算定できなくなり、大幅な減収になる医療機関も出てきます。さらに、在宅時医学総合管理料の月2回訪問の区分には、重症度割合の要件が新しく入りました。
ここで、私が皆さんにお伝えしたいことがあります。
点数が付いたからその方向に動く、点数が付かなくなったからやめる――そういう発想では、在宅医療の本質を見失ってしまいます。社会に本当に必要な医療を実践していれば、報酬は後から付いてくる。私はそう信じています。重症の患者さんを受け入れる覚悟と、それを支える知識や体制を整えること。これは点数のためではなく、目の前の患者さんに最善のケアを届けるためにこそ、求められるものなのです。
そして、ここがこの本のもう一つの大切なところなのです。
報酬の知識は、それ自体が目的ではありません。その知識を、患者さんのために本当に活かすためには、私たちの中に確かな理念がなければならない。私はそう考えています。
だからこそ、私はこの本に、あえて理念を語るコラムを入れています。「算定マニュアル」という、いわば実務の本です。でも、この本は全国の本当に多くの在宅医療関係者が読んでくださる。だからこそ、報酬の解説の合間に、私が現場で大切にしてきた在宅医療の理念を、コラムとして散りばめているのです。
そのコラムを少しだけ紹介させてください。
一つ目は、「へき地医療にスーパー医師は必要か?」。私たちの俵津診療所での実践から、患者さんの思いに寄り添う「Beingの医療」について書きました。Dr.コトーのような天才医師でなくても、多職種が一堂に会するミーティングがあれば、その人らしい人生を支える医療は実現できる、というお話です。
そして、看取りにまつわるコラムもいくつか入れています。
「最期の3日間が紡いだ奇跡」では、お母さんを自宅に連れて帰るという選択をされたご家族の物語を。「最期の瞬間はみていなくてもいい」では、死に目に会えないことを恐れるご家族の肩の荷を、どう下ろしてあげられるかを綴りました。
大切なのは、最期の瞬間にそばにいることよりも、その人とどう向き合ってきたか、なんですね。
「在宅医療での適切な訪問頻度とは?」では、訪問の頻度を医療機関の都合ではなく、患者さんとご家族の「安心」を羅針盤にして決めていく姿勢について書いています。
意思決定支援についても、二つのコラムを入れました。
「延命治療をやめたいと言われた時」、そして「本人と配偶者の意見が違う場合の意思決定支援」。答えを急がず、ご家族と医療者が一緒に悩み続ける、その過程こそが、本当の意思決定支援なのだ、ということをお伝えしたかったのです。
さらに、「命の終わりを子どもにどう伝えるか?」。生活の場である在宅だからこそ向き合う、子どもたちへの「伝える勇気」について。
そして、私たちが大切にしている食支援を取り上げた「最期まで食べる喜び」。点滴の悪循環から抜け出し、もう一度口から食べられるようになった患者さんたちの、奇跡のような回復の物語です。
最後のコラムは、「死に向き合うということ」。
私自身が47歳で進行癌と診断され、自分の死と向き合った経験から、QOD――死の質という新しい視点について書きました。
報酬の解説と、これらの理念のコラム。この両方があってはじめて、私たちは制度を「患者さんのため」に使いこなせるのだと思っています。
第9版では、重症度要件をはじめとする重要項目を分かりやすく解説するとともに、改定の重要度ランキングを改めて整理しました。発出された疑義解釈も章ごとにまとめ、レセプトチェックや個別指導対策といった、より現場で役立つ新しい章も設けています。「全国在宅医療テスト」の公式テキストとしても、お使いいただけます。
複雑な在宅医療制度を正確に理解すること。そして、その知識を、確かな理念とともに患者さんのために活かすこと。この本が、その両方を支える一冊になれば、これ以上の喜びはありません。
ぜひ、お手に取っていただけたらと思います。