たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第1回 なぜ多職種連携は必要か? ~連携は「自らの無力さ」の自覚からはじまる~

最近、地域包括ケアシステムや在宅医療を推進するにあたり、「連携」という言葉が多用されていますが、連携は何のために必要なのでしょうか?

日本の医療は単独職種で、「それぞれの技術やパフォーマンスをいかに高めるか」という視点で発展してきました。しかし、単独職種だけで業務を行っていくだけで本当にいいのでしょうか?在宅医療は治せない病や障害、老化に向き合っていく医療です。そして、在宅医療の最終的なゴールは看取りです。患者さんが亡くなる時にそれぞれの専門職のできることは本当に限られます。患者さんが亡くなった時に、これで良かったと納得してもらうためには、多職種の力が必要です。単独職種の専門分野だけで医療やケアを行うのは限界があり、様々な職種で構成されたチームで協力して患者さんやご家族に向き合っていかなければ、納得できる最期は得られないと思います。

訪問診療や訪問看護、訪問介護など、それぞれの専門職が行っているサービスのどれか1つだけでは、患者さんは安心して療養生活を送れません。なぜなら、その専門職がサービスを行っていない1日の大半の生活と介護が支えられないと、患者さんが満足できる生活が送れないからです。在宅医療は「医療だけをやっていればいい」「病気だけを診ていればいい」というものではなく、患者さんと介護をするご家族の生活を支えなければなりません。自分が行うサービスだけでは、患者さんの生活や人生は支えられないという「自らの無力さ」を自覚すれば、自ずと多職種の必要性を感じ、多くの職種と連携が始まります。患者さんを取り巻く多職種チームなくして、患者さんの在宅療養は成り立たないのです。多職種、多事業所であっても1つのチームとなり、患者さんとご家族を支えるという意識を持つことがとても大切です。そんな思いもあって、私自身は在宅医療に「連携」は絶対に必要なものだと強く感じています。さらに質の高いケアを目指すならば、患者さんの生きがいづくりやご家族の支援にも積極的に関わってほしいと思います。生きがいやご家族の介護、精神的な支えがなければ、患者さんは在宅療養を継続できません。このような一歩踏み込んだ支援にも、ぜひ多職種のチームで臨みたいものです。

そして、在宅医療の多職種連携を進めていくには、情報の共有と方針の統一が必要です。例えば、看取りの方に点滴をしない方針になったとして、医師や看護師だけでその方針を共有し、ケアマネジャーやヘルパーが「食べられないのに、点滴もしてもらえないのか?」と発言したら、患者さんもご家族も混乱することでしょう。多職種のチームで皆が同じ方向を見て、同じ方針で関わることが大事になってくると思います。

在宅医療の対象の方たちは、すでに食事を食べられないか、近い将来食べられなくなる方がほとんどです。在宅医療において、「食べられなくなったらどうするか」は大きな命題の1つです。患者さんの死に向き合い、生き方に寄り添って、どのような選択をしていくのかをご家族と一緒に悩み考えていく医療でもあります。 在宅医療は患者さんの自宅で行われる医療、生活の中で行われる医療です。医師であっても、患者さんの病気を診ているだけでは療養生活は成り立ちません。専門職の一人ひとりに、患者さんの生活を支えるという役割があることを忘れてはいけないと思います。

患者さんが安心して在宅療養できることが、在宅医療や在宅ケアを担う私たちの目的だとすれば、1つの専門職が専門性を発揮するだけでは不十分で、「患者さんの生きがいづくり」や「ご家族の理解と介護協力」を目指して連携していくことが何より優先されると思います。 多職種チームのメンバーは、まずこのことを認識しなければならないでしょう。やみくもに自分の専門性だけを発揮するような仕事をしていると、目的を誤ってしまうことがあるからです。 患者さんやご家族が住み慣れた自宅で「自分らしく生きる」ことを支えるために、専門職は自分の役割と多職種の仕事の意義を理解しながら、皆さんにはそれぞれの地域でしっかりと連携を深めていってほしいと思います。

関連動画 第1回 なぜ多職種連携は必要か?

~連携は「自らの無力さ」の自覚からはじまる~