たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第2回 患者さんの希望を叶える多職種チームになるために

在宅医療の多職種チームは患者さんの数だけ存在します。そのチームメンバーは、病院の多職種チームのように同じ法人や団体に属しておらず、法人や事業所も違えば、報酬の出どころも医療保険・介護保険で異なります。多様なバックグランドを持つ専門職が1つのチームとして機能するためには、チームの目的と各スタッフの役割を明確にすることが必要です。 在宅医療における多職種チームの真の目的は、「患者さんが安心して自宅で療養できること」だと思います。当院では、さらに満足度を上げるために「自宅に帰ってきて本当によかった」と患者さんやご家族が思えることを目指しています。そのために実践しているのが「患者さんの希望を叶えること」です。この実現には多職種チームの力が欠かせません。
患者さんの夢や希望を叶えるため、 多職種の連携を調整する当法人の主任ケアマネジャーと研修医との間に、終末期の患者Aさんのことでこんなやりとりがありました。

主任ケアマネジャー:先生、Aさんを担当されていますが、Aさんがやりたいことを聞いてみられましたか?

研修医:いいえ......。可哀想で尋ねることができませんでした。

主任ケアマネジャー:可哀想 ?

研修医:だって、聞いたって叶えてあげられないのに、聞くだけ可哀想じゃないですか。

主任ケアマネジャー:でも、聞かないと、○○さんがやりたいことがわからないままですよ。○○さんの希望を聞いて、自分ではできないと思ったら、多職種チームの力を信じて、投げかけてみるんですよ。チームのBさんに言ってみてBさんがダメなら、Cさんに。Cさんがダメでも、Dさんなら、叶える方法を思いつくかもしれないんです。 なのに、可哀想だからといって何も聞かないでいたら、ご本人が希望を叶える機会すらつくれないんですよ。

まさに、この主任ケアマネジャーの言う通りなのです。
40 代という若さで、がんの末期状態となったAさん。この男性のやりたいことは、家族とよく通行った公園で桜をもう一度見ることでした。しかし、医師から告げられている余命ではそれを叶えるのは絶対に無理でした。新人ケアマネジャーも、この願いはとても叶えられそうにないと実現を諦めていました。

しかし、多職種チームの作業療法士は、男性が写真や動画を撮影したり鑑賞するのが好きだという情報を得て、「それならば、美しい風景の動画を鑑賞する時間を作りましょう!」と提案したのです。
好きなことは、人を元気にするのでしょう。リハビリの一環として、 作業療法士とともに風景動画を鑑賞するうちに、男性はみるみるうちに生気が蘇ってきたのです。 それまでは他の介護サービスが関わることを嫌がっていたのですが、積極的にサービスを導入し、スタッフたちとも打ち解けるようになりました。
そしてついに、念願のお花見が実現したのです。男性は春まで命をつなぎ、家族といつもの公園に出かけ、満開の桜の下で家族写真を撮ることができました。

「自分1人の力では叶えられそうにないから、聞かないほうがいい」と思うようなことでも、「不可能なことであっても、どうすれば希望に近いことを叶えられるだろう?」と考えられる多職種チームがあるならば、自分1人で抱えこまずにチームに問いかければいいのです。それが在宅医療における多職種連携の強みです。自分たちの専門的なサービスだけを行うだけではなく、患者さんの生きがいを大切にして、やりたいことを支援するのはとても大切です。

在宅医療や介護の世界には、多種多様な専門職だけでなく、多様な機能を持つ施設や事業所があります。多職種チームの一員として担える役割を知り、新しい視点からチームを編成して患者さんの支援に取組んでいってほしいと思います。患者さん本人の満足とご家族の納得、誰かの幸せに貢献できるという医療者自らの生きがいのためにも。

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