たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第13回 自分の無力さを自覚することから多職種連携がはじまる

皆さんは、在宅医療に他職種・多職種との連携が必要だと思いますか?
在宅医療に関わったことのない人はイメージがわかないかもしれませんが、在宅医療関係者であれば、連携が必須であると分かっている方がほとんどでしょう。 訪問診療や訪問看護・介護など、患者さんの在宅療養に欠かせないサービスを行うとしても、自分が提供するサービスだけでは患者さんの療養生活が成り立たないことを痛感しているからです。
訪問診療は約30分、訪問看護は30分~1時間、生活に密着したサポートをする訪問介護でも、1~2時間くらいしか患者さんの元にはいません。連携がなければ、自分の知らない他のサービスが実施される時間に、患者さんと家族がどのように過ごしているかを知り、今後の関わりを保証する方法はないからです。

「自分1人だけの力では、患者さんの在宅療養生活を支えることはできない」という自分の無力さを知ることから、他職種との連携が始まります。 昨今は、病院でも「チーム医療」という言葉が盛んに使われるようになりました。しかし、病院と在宅医療では、多職種連携の意味も性質も違います。病院では、全ての職種が同じ組織のスタッフであり、第一の目的は患者さんの病気を治療し早期に回復させることです。一方、在宅医療の場合では、医師と看護師ですら、別法人の事業所に所属していることもあります。 在宅医療のチームメンバーは、看護師や薬剤師、理学療法士などの医療従事者だけではありません。ケアマネジャーや訪問ヘルパーなどの介護職、デイサービスやショートステイなどの施設、福祉用具レンタルや在宅酸素の供給事業者、民生委員、保健所や行政の福祉課、地域包括ケアセンター、時には患者さん宅の大家さんや隣人、友人までもが一つの「在宅チーム」となり患者さんを見守っています。 そしてこの在宅医療チームの第一の目的は、「患者さんが住み慣れた場所で、安心して療養生活を続けられること」なのです。

病院と在宅医療の多職種チームの違いは、それぞれの特性の違いともいえます。
私は、病院医療と在宅医療の特性を「Doing の医療」と「Being の医療」という言葉で表現しています。 「Doing の医療」とは、治し、施す医療のこと。その最たるものが救命救急医療です。患者さんの命を救うために1分1秒を争う医療現場では、何より治療が優先されます。患者さんの命を守るため、時には医師として冷徹な判断をし、観察者として見守ることもあります。そのような場面では、患者さんの生き方に思いを寄せるよりも先に、治療を優先しなければならないことも多いことでしょう。

一方、それと対になる「 Being の医療」とは、患者さんを支え、寄り添う医療のこと。この代表格が在宅医療なのです。在宅患者さんのほとんどは、治らない病気や障がいを持つ人です。しかし、病気や障がいを治すことはできなくても、痛みや症状を楽にすることはできます。痛みや症状が楽になれば、患者さんは自然とやりたいことが出てくるもの・・。やりたいことを実現できるように多職種で支援するのが在宅医療なのです。

また、在宅医療の対象となる人たちは、すでに食事を食べられないか、近い将来食べられなくなってしまいます。在宅医療において「食べられなくなったらどうするか」は、重要な命題の1つです。患者さんの死に向き合い、生き方に寄り添って、どのような選択をするのか、本人・家族と一緒に悩み考えていく医療でもあります。 在宅医療は、患者さんの自宅で行われる医療であり、生活の中で行われる医療です。医師であっても、患者さんの病気を診ているだけでは療養生活は成り立ちません。専門職の一人一人患者さんの生活を支えるという役割があることを忘れてはいけません。

患者さんが安心して療養できることが、在宅医療や在宅ケアを担う私たちの目的だとすれば、一人の専門職が専門性を発揮するだけでは不十分で、「患者さんの生きがいづくり」や「家族の理解と介護協力」を目指して連携することが何より優先されると思います。 多職種チームのメンバーは、まず第一にこのことを認識しなければならないでしょう。やみくもに自分の専門性を発揮するような仕事をしていると、目的を誤ってしまうことがあるからです。 患者さんやご家族が住み慣れた自宅で「自分らしく生きる」ことを支えるために、専門職は自分の役割と多職種の仕事の意義を理解しながら、皆さんそれぞれの地域でしっかりと連携を深めていってほしいと思います。

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