たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第15回 ウクレレの魔法

昨年、私が新しく始めた趣味があります。
それはウクレレ演奏です。ある医師がウクレレを背負って当院に見学に来られ、行く先々で演奏したところ、たちまちみんなを魅了し、盛り上がったことがきっかけでした。小さな楽器ながら、魔法のような音色に感動し、私はすぐに虜になりました。

早速、ウクレレを購入し、最初にマスターしたのが「ハッピーバースデートゥーユー」でした。当院では、患者さんの誕生日に小さな花束を贈ります。その際にこの曲をウクレレで伴奏し歌いながらお祝いしたいと思ったのです。

先月、お誕生日を祝った1人暮らしの患者さんからこんなうれしいことを言われました。「先生、この間は、家族のようにお祝いしてくれてありがとう。とってもうれしかった。ウクレレ良かったので、またぜひ聞かせてください」と。その言葉でさらにモチベーションが上がり、レパートリーをもっと増やそうと、ワクワクしながら練習に励んでいます。

誕生日は誰にとっても特別な日ですが、在宅で療養する患者さんにとっては、特にかけがえのない記念日です。患者さんの診療を始めてから、当院が関わる期間は約2年間。もちろんそれより長い場合も短い場合もありますが、一度も誕生日を一緒にお祝いできずに亡くなられる方もいます。

患者さんにとって、この誕生日が最後になるのかもしれない…。そんな思いもあって、私は一人一人のお祝いを大切にしたいです。花屋さんにはその方のイメージに合う花束をつくってもらい、お祝いの日は一緒に写真を撮るのですが、花束を抱えたこの時の写真が「とてもいい笑顔だから」と遺影になることもあれば、患者さんの人生の一コマとして、遺影のそばにいくつものアルバムになって飾られていることもあります。

在宅医療は患者さんの生活の中にある医療ですから、患者さんの日常を大切に尊重していきたいと考えています。だからこそ、医療一辺倒で終わるのではなく、日常を明るく彩るような関わり方をして「生きていてよかった」と思ってもらえる一瞬を味わってほし いのです。患者さんのために自分たちは何ができるのか?私たちはいつも考えながら関わり続けています。患者さんにとっての喜びは、サポートする自分たちの喜びにもつながります。

今では当院の職員もウクレレの魔法にかかり、多くの方に喜んでいただきたいと練習に夢中です。患者さんのお誕生日や、イベント等、何かと機会をつくっては、みんなで演奏し大活躍しています。

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