たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第19回 食支援は究極の多職種連携

あなたは亡くなる最期の日まで食べることを望みますか?それとも最期は絶食でも仕方がないと思いますか?
現在は、亡くなる最期まで点滴や経管栄養、胃ろうなどの人工栄養を続け、吸引などの医療処置が必要となり、絶食で亡くなることが圧倒的に多い時代です。そうすることで多少の延命が可能になっても、過剰な水分で唾液や痰が増え、絶飲食が続き吸引も必要になります。絶飲食となれば口から食べる機能はさらに低下し、点滴と痰吸引が繰り返されるようになります。また、身体についているチューブ類を抜いてしまう患者さんは身体を拘束されることもあります。このような医療処置が増えてくると、住み慣れた自宅や施設に退院するのは難しくなります。苦しい治療を受けながら食べることもできず、病院で亡くなってしまうことになるのです。この循環を私は「終末期の点滴の悪循環」と呼んでいます。たんぽぽクリニックには急性期病院から絶飲食を言い渡され、点滴と吸引の処置を受けている患者さんが数多く紹介されてきます。

終末期に「絶食」にせず、口から食べる取り組みのことを「食支援」と呼び、在宅医療では近年注目されています。特に高齢者は誤嚥性肺炎で入院すると絶食となり、点滴を続け、治療を続けます。しかし、肺炎が治っても再発予防のために絶食が続き、食べることが叶うことなく亡くなられます。誤嚥予防のために本人の食べる権利を安易に奪ってもいいのでしょうか?
本人の生き方に寄り添う在宅医療では、本人の「食べたい」、家族の「食べさせたい」という気持ちにぜひとも応えたいもの。リスク回避を優先して禁止するのではなく、亡くなる前でも本人が食べたいものを食べさせてあげたいと私は思います。
食支援においては、まず本人の食べる力を見極め安全に食べられるように、口腔ケア、摂食言語機能訓練、身体機能訓練、管理栄養士による食形態の工夫など多職種チームで取り組みます。食支援で一番大切なのは患者さんの食べたい気持ちを引き出すことです。意欲を阻害しているのは、実は人工栄養である場合がほとんどで、人工栄養をやめるか減らすかすると空腹を感じて食欲が回復してきます。

この食支援は究極の多職種連携の上に成り立ち、質の高い在宅医療が求められます。食支援自体が「人生会議」であり、在宅医療の真の力を発揮する取り組みなのです。「人生会議」とは、治療やケアのあり方を本人と家族、医療者があらかじめ話し合うプロセスのことを言い、意思疎通が困難になる終末期においても、患者さんの意思を尊重することが可能になります。

「食べられなくなったらどうしたいですか?」と患者さんや家族に問うことは、終末期にどのような治療や介護を受けたいのかを考えるきっかけとなります。まさにアドバンスケアプランニング(ACP)です。在宅医療に関係する私たちは、関わり始めた最初の時から「食べられなくなったらどうしたいですか?」とご本人やご家族に問うことが大切です。在宅医療を行う患者さんは、既に食べられないか、近い将来食べられなくなる患者さんです。食べられなくなったらどうするのかを家族や関係者と一緒に十分話し合うことが大切です。その時に重要なのは結論を出すことではありません。人工栄養を行うのか、自然に看ていくのかなど、取り得るすべての選択肢を分かりやすく伝え、食べられなくなったらどうするかを考える「スタートラインに立つ」ことが大切なのです。患者さん・ご家族と医療者が、食べること、生きることについて一緒に悩み考える食支援の過程は「人生会議」そのものだと思います。早すぎるACPはないのです。

好きな物をおいしく口にできることは、本人だけでなくご家族にとっても大きな喜びです。終末期に介護をするご家族は、何もしてあげられないと無力感に苛まれることもありますが、最期まで食べる食支援はそんなご家族の希望と癒やしにもなることでしょう。

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