たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第22回 できることとすべきことは違う

最近、新しく在宅専門クリニックを開業したクリニックから当法人に多くの方が見学に来られますが、病院の「Doing」の医療を持ち込もうとしている先生方が結構いらっしゃいます。在宅でどんどん輸血をしたり、ハイテク機器を駆使したり・・・。実は開業当初の私もそうだったのですが、病院の医療を在宅に持ち込むことで、本当に患者家族が幸せになるのか?もう一度考えていってほしいと思うのです。

たんぽぽクリニックを開業した当初のこと。外来診療を行いながら訪問診療をされている開業医の先生では診られないような、重症の在宅患者を診たいと私は意気込んでいました。その頃は、重症の患者を診ることが、すごいことのように考えていたのだと思います。病院の医療をそのまま持ち込み、自宅でも病院と同じようなことができるとアピールすることで、在宅医療の素晴らしさを周知させようとしていたのかもしれません。ご存知のように、在宅医療でも人工呼吸器や中心静脈栄養、点滴、胃ろうなど病院同様の処置ができます。当時は、点滴のための血管確保が難しい場合、即座に中心静脈栄養のリザーバーの皮下埋め込み術を行っていました。

しかし、経験を重ねるうちにわかってきたことがあります。それは、病院同様のハイテク医療機器や高度な医療行為が、患者や家族の幸福や満足に必ずしもつながるわけではないということです。
病院の医療をそのまま在宅医療に持ち込むことは、むしろ簡単です。しかし、そうすることで介護者や医療・介護スタッフは、医療機器の管理に余計な時間と神経を使わなければならず、患者が負担する医療や介護の費用も上昇します。それになにより、病院と同じ医療を受けることを望んで、自宅に戻る患者や家族は少ないのです。

「医師にできること」と「医師がすべきこと」は違います。医療の出発点は医師ではなく、患者さんやご家族のニーズです。そのため、多くの医療行為を選択肢として提示しても、決して強要することなく、患者さんとご家族が本当に満足できるものはどういう方法なのかということを一緒に悩み、考えていく姿勢が大切なのです。

在宅医療では、できるだけシンプルで、できるだけ自然にみていくのが一番良いと私は考えています。できるけれども、あえてしないという勇気が、在宅医療では必要なのではないかと思うのです。

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