たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第27回 なぜ多職種で連携してミーティングを行うのか?

当院では見学者の受け入れを再開しました。そして、見学をされる方には朝の全体ミーティングで自院の紹介や取り組みをプレゼンテーションしてもらっています。見学されるだけでは学びや情報が一方的になってしまいますが、プレゼンをしてもらうことで私たちも他の医療機関のことが学べますし、相手のことがわかったほうが限られた時間の中で相手のニーズに合う情報を提供できるので、お互いにメリットがあるのです。

そんなプレゼン時に、ある医療機関の医師が「当院では、以前はたんぽぽクリニックさんのような多職種が全員参加する朝のミーティングを行っていましたが、最近は多職種の参加はやめて、医師だけでミーティングを行うようにしました」と話したのです。さらには、医師だけでミーティングを行うことで治療法方針が深く話し合える、患者の情報共有がスムーズになった、ミーティングが短時間で済み、医師以外の職種も朝の忙しい時間を有効活用できるようになったなど、やめたことで大きなメリットがあると語ったのでした。

このプレゼンを聞いた夜、私はなぜうちでは全体ミーティングをしているのだろう?と改めて考えたのでした。そんなにメリットがあるなら、全体ミーティングをやめたほうが良いのか?と思ったりもしたのですが、すぐに答えが出ました。たんぽぽクリニックでは、多職種参加の全体ミーティングが必要不可欠である!と。

皆さん、在宅医療に他職種・多職種との連携は必要だと思いますか?
在宅医療に関わったことのない人には、全くイメージがつかないと思います。しかし、在宅医療に携わっている人なら、絶対必要であると思うはずです。それは自分が訪問診療や訪問看護、訪問介護など、患者さんの在宅療養には欠かせないサービスを行っていたとしても、自分が提供しているサービスだけでは患者さんの療養生活は成り立たないと痛感しているからです。 訪問診療なら約 30 分、訪問看護でも30分~1時間、訪問介護でも1~2時間くらいしか患者さんの元にはいません。自分の職種だけでは、訪問していない大半の時間を、患者さんと家族はどのように過ごしているのかを保証する方法がないのです。

「自分一人だけの専門性では、患者さんの在宅療養生活を支えることはできない。」そんな自分の無力さを知ることから、他職種との連携が始まります。 昨今は、病院でも「チーム医療」という言葉が盛んに使われるようになりました。しかし、多職種との協働であっても、病院と在宅医療では性質も意味も違います。病院では他の職種であっても、同じ病院、同じ組織のスタッフです。そして、患者さんの病気を治療し、早期に回復させることが目的です。しかし、在宅医療の場合だと医師と看護師ですら、別法人の事業所に所属していることがあります。 さらに言えば、チームメンバーは看護師や薬剤師、理学療法士や作業療法士といった医療従事者だけに限りません。ケアマネジャーや訪問ヘルパーといった介護職、デイサービスやショートステイなどの施設、福祉用具のレンタルや在宅酸素を供給する事業者、そして民生委員、保健所や福祉課などの行政、地域包括ケアセンターといった地域の機関、時には患者さんの家の大家さんや隣人、友人までもが一つのチームとなって患者さんを見守ることもあるのです。
そして、このチームの目的は、「患者さんが自宅で安心して療養生活 を続けること」なのです。

病院と在宅医療の多職種チームの違いは、病院と在宅の医療の特性の違いと言えます。私は病院医療と在宅医療の特性をそれぞれ、 「Doing の医療」、「Being の医療」という言葉で表現しています。
「Doing の医療」とは、治し、施す医療のこと。その最たるものが救命救急医療です。患者さんの命を救うために1分1秒を争う現場では、何より治療が優先されます。患者さんの命を守るために、時には医師として冷徹な判断や観察者としての振る舞いが必要で、患者さんの生き方に思いを寄せるよりも先に、治療を優先しなければなりません。それと対になる「 Being の医療」とは、支え、寄り添う医療のこと。この代表格が在宅医療です。在宅患者さんのほとんどは、治らない病気や障害を持った人です。病気や障害を治すことはできませ んが、痛みや症状を楽にすることはできます。痛みや症状が楽になったら、患者さんはやりたいことが出てくるもの......。そのやりたいことを実現できるように支援するのが在宅医療なのです。 また、在宅医療を選択する人の多くは、既に口から食べられないか、近い将来食べられなくなる状態の人です。患者さんの死に向き合い、生き方に寄り添って、どのような選択をしていくのかを家族と一緒に悩み、寄り添っていく医療でもあります。 在宅医療は患者さんの自宅で行われる医療、生活の中で行われる医療です。医師であっても患者さんの病気を診ているだけでは、療養生活自体が成り立たなくなります。専門職であっても、患者さんの生活を支えるという役割があることを忘れてはいけないのです。

患者さんが安心して、満足した在宅療養を送ることが在宅医療や在宅ケアを担っている私たちの目的だとすれば、患者さんが満足する在宅療養を送るためには、一つの専門職が専門性を発揮するだけでは不可能で、「患者さんの生きがい」や「家族の理解と介護協力」が何より優先されると思います。 多職種チームのメンバーはまず、このことを理解しなければなりませ ん。やみくもに自分の専門性だけを発揮していると、目的を誤ってしまうことがあるのです。
利用者さんやご家族が「自分らしく生きる」ことを支えるためには、多職種のチームで連携する在宅ケアが大切になると思います。皆さんの地域で多職種のチームが連携して在宅ケアの質が高まることを願っております。

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