たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第29回 「生きる」を支える訪問リハビリテーション

「リハビリ」と聞くと、入院中もしくは通院して病院で受けるものというイメージが強いかもしれませんが、在宅医療・介護の分野でもリハビリはあります。理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が患者宅に出向いてリハビリを行う「訪問型のリハビリテーション」です。患者さんの自宅で行うのですから、病院のように大掛かりな器具を使ったリハビリは行えません。その代わりに、患者さんの生活に密着した現実的な機能訓練が行えます。患者さんの住宅環境はそれぞれで、段差の多い伝統的な日本家屋もあれば、床にまで道具や荷物があふれているお宅もあります。そんな住宅環境を、専門職ならではの視点で観察して整備し、改修のポイントや必要性などを助言することも、リハビリスタッフの大切な役目です。また、自宅という限られたスペースだからこそ、患者さん独自の環境に応じた、生活を快適に行うための機能訓練ができます。

ゆうの森の訪問リハビリテーションでは、患者さんの機能訓練を行うという従来のリハビリテーションの概念にとどまらず、それを超えるDAPという活動を通じて、「生きる」ことを支えています。DAPとは、Dream Activity Projectの略で、患者さんの夢や希望を聞き出して、それを実現するプロジェクトです。
「患者さんの夢や希望を実現する」と聞くと、どんなに大がかりな支援なのか?と思われるかもしれませんが、在宅患者さんの夢や希望は、「買い物に行きたい」「元気な頃によく行っていた、釣りに行きたい」というような、ささやかで日常的なものがほとんどです。しかし、それは言い換えれば、買い物や趣味など、健康な人ならば、当たり前にやっていることをあきらめているということに他なりません。

74歳の三郎さん(仮名)は、6年前に脳梗塞を発症する前は、よく川釣りに出かけていました。昨年転倒し骨折されてから、三郎さんの介護量が増えたために奥さんも体調を崩し、病院受診など最低限の外出だけで、家に閉じこもるようになっていました。奥さんは三郎さんに「目標を持って生活してほしい」と以前から言っていたのですが、三郎さんの目標は簡単には見つかりませんでした。リハビリスタッフと三郎さんとの会話から、川釣りが趣味だったことがわかり、「釣りに行きませんか?」と誘ってみました。
もちろん、本格的な川釣りはできませんが、市内には山里の環境を活かした釣り堀のあるデイサービスがあり、そこで釣りを楽しむことにしました。
それまでは、屋外に出ることさえ嫌がっていた三郎さんでしたが、「釣り堀に行く」という目標ができると、「今度外出するから、外で歩く練習をしましょう!」というスタッフの声かけに応じ、屋外の歩行訓練をはじめました。

そしていよいよ当日。釣り堀にはデイサービスの利用者さん達もいて大混雑の中、同行したリハビリスタッフやケアマネジャーは1匹釣り上げるのがやっと、多い人でも3匹程度という釣果の中、三郎さんは慣れた手つきで、なんと6匹も釣り上げたのです。釣り上げたニジマスは、近くのお店で調理してもらい、皆で美味しくいただいたそうです。

患者さんのやりたいことを支援することが、リハビリになるのか?と思われるかもしれませんが、患者さんの生きる力を引き出すことをリハビリと考えるのならば、このDAPの活動はまさにリハビリそのものでしょう。
三郎さんは釣りに行ったその日、とてもいい笑顔で過ごし、家で帰りを待っていた奥さんもその笑顔を見て大変喜びました。あんなに外出を嫌がっていたにもかかわらず、「また、釣りに行かんと!(釣りに行かないと)」と次の外出の機会を心待ちにしています。

「今の身体機能を維持するために、筋トレや歩行訓練をしましょう」と言われても、患者さんは、なかなか前向きに取り組む気持ちにはなれないものです。しかし、リハビリを行うスタッフが、自分の夢や希望、やりたいことをうまく引き出し、一緒になって実現してくれることがわかると、スタッフへの信頼も増すでしょうし、リハビリへ取り組むモチベーションも上がります。

生きがいはどんな人にも必要です。病気や障がいがあるからとあきらめず、患者さんの生きがいを見つけるDAPの活動は、ゆうの森が自信を持って取り組み続ける支援活動なのです。

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