たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第35回 在宅医療のグローバル化

世界各地への航空網の広がりや、インターネットなどの情報通信技術の普及により、近年グローバル化が顕著になりました。しかし、グローバル化の限界もみえはじめ、地域に根付いたローカル化の動きが出ていたところに、新型コロナウイルス感染拡大により、モノとヒトの往来に大きくブレーキがかかりました。

在宅医療に目を向けてみましょう。2023年9月17日総務省が発表した日本の高齢化率は29.1%と、世界一の超高齢社会です。世界のどこの国も経験したことがないスピードで、日本の社会は高齢化しています。急速な高齢化は日本だけではなく、アジア諸国をはじめとする世界の各国も同様です。
台湾や韓国では、今のところは高齢化率が十数%と「高齢社会」の域ですが、両国ともに2030年には「超高齢社会」になると予測されています。危機感を持つ台湾・韓国の医療・介護関係者は日本の在宅医療や介護に非常に高い関心を持っています。近年、台湾の医療・介護関係者が当院に見学に来たり、私自身も台湾で在宅医療の講演を行ったりと交流が続いています。

日本の場合は、急激な少子高齢化と医療財政問題、そして住み慣れた自宅で亡くなりたいという国民の希望と合致したこともあり、在宅医療が強力に推進されています。世界に先駆けて高齢化の進む日本が、超高齢社会にどう対応していくのか、同様の課題を持つ国々が関心を持ち、学ぼうとしています。日本の在宅医療は、世界の国々の医療文化にも大きな影響を与えることでしょう。

在宅医療の分野でも、「地域医療から出発し、それが全国へ普及し、世界規模に発展する」というモデルが実現されつつあります。私たちは、目の前の患者さんにしっかりと向き合い、日本の医療変革や社会保障問題、世界の課題にも貢献していかなければなりません。
グローバル化とローカル化のバランスを取り、在宅医療の発展や普及を追求しながらも、そこに住む方々の医療や福祉に格差がないか、その地域で医療やケアを継続して提供していけるのかに軸足を置く社会を目指していくことが、私たちの「幸せ」や「満足」につながっていくのではないでしょうか?

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