たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第36回 医師偏在の解決方法

私は、たんぽぽ俵津診療所での僻地医療への取り組みが評価され、2016年に「第一回日本サービス大賞地方創生大臣賞」をいただきました。その受賞をきっかけに、私は厚生労働省医政局の医師需給分科会に参加させていただくことになりました。医学部の定員を決めたり、医療の地域偏在や診療科偏在を解決する方法等を検討していく国の重要な会議です。

私が参加し始めた当時、厚生労働省では、医療の地域偏在を解決するために、医師を強制配置しようという方針でした。「医師の養成には、多額の国費が投入されているのだから、一時的には国が強制的に医師少数地域へ派遣してもいいだろう」というのが、強制配置推進派の意見でした。
しかし、厚生労働省が全国の医師10万人に行ったアンケートの結果、約半数の医師が条件次第では医師少数地域への勤務も可能であるとの回答が得られ、潮目が変わりました。そこで、当院の俵津でのへき地医療の取り組みを報告しました。すると、多くの構成委員たちは、望まない医師を地域に赴任させるのは、医師にとっても住民にとっても、幸せでないことに気づいたのです。規制改革や権限委譲も行い、医師少数地域へ行きたい医師が行けるようなシステムを整備し、へき地に行く医師や派遣する医療機関を評価しようという動きに変わりました。

既にこの方向で2018(平成30)年7月に医療法及び医師法の改正が行われました。地域偏在をただ医療従事者の数だけで解決するのではなく、仕組みやシステムで解決するこの方向性は期待できると私は思っています。特に地方の医療機関は、医療従事者不足が原因で疲弊していると言われており、それに加えて住民の高齢化も進んでいます。平均在院日数の短い急性期病院で医療を受けた後、患者さんは早期の退院を余儀なくされます。高齢者は、病気や老化とともに徐々に通院困難となります。医療機関の機能分化が困難な地域のこうした課題の解決には、在宅医療が大きく貢献するのではないかと私は考えています。

急性期の医療機関や介護関係機関等と連携してその人の暮らしを支え、どんな状態でも在宅療養が可能となり、家での看取りも行うのです。そうすることで、患者さんやご家族の安心感と満足度は高まります。自宅での看取りが増え、社会的入院等を回避することで、病院の医療従事者は本来の「治療」に専念でき、医師等のやりがいも向上することでしょう。
地域に在宅医療の実力が周知され発展していくことは、地域医療の疲弊や医療偏在を解決する手だてになるのではないかと思います。多くの地域で進行する人口減少と向き合い、医療のあり方を変える取り組みがこれからは必要となっていくのです。

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