著者:永井康徳
ゆうの森には、全国からたくさんの見学者が来られます。見学者の方に永井から伝えたい十ヶ条をお話しさせて頂きます。
【PART3 第9ヶ条~第10ヶ条】
第9ヶ条 なんでも在宅医療相談室~どう思いを伝えるか?+営業機能
当院には、在宅医療導入期の患者の不安を軽減し、退院から初診までをスムーズに行うための支援部署「在宅療養なんでも相談室」があります。
新規患者紹介は、この在宅療養なんでも相談室が窓口となって受け付け、患者情報を収集し、課題があれば解決の目処を立て、退院前カンファレンスにも参加します。集約した患者情報を当院の職員や患者に関わる他事業所にも共有して、初診の同行までを行うのです。新規患者にワンストップでサービスを提供する部署です。この在宅療養なんでも相談室には6つの機能があります。
①外部からの窓口機能
・法人の顔としての窓口
・一人の患者には、継続して同一担当者が関わる
・患者受け入れの進行具合を職員に共有する
②在宅医療導入機能
・在宅医療依頼・相談窓口
・インテークと情報収集
・訪問診療や緊急時の対応、費用徴収などのシステムの説明
・初診同行
・紹介者への情報と経過のフィードバック
・薬局・訪問看護ステーションの選定
・訪問診療担当者へのスムーズな移行
③コーディネート機能
・外来の患者紹介や入院患者紹介への対応
・当院における外来・入院・在宅への移行と調整機能
・同法人、または他事業所との多職種サービスの調整
・紹介された患者の経過や看取りの様子を紹介者に報告
・生活保護等、行政関係者との調整
④相談機能
・病院や地域からの在宅医療に関する相談対応
・クレーム対応
・困難事例への相談と対応
⑤理念体現機能
・患者本位を貫く当法人の理念を体現する
・相談業務を日々こなす中で、理事長と同じ理念を身につけている
・本人の支えや大切なこと、人生観や価値観を把握し、意思決定支援を実践していく
⑥営業機能
・患者紹介先への定期訪問
・当法人主催の研修会などの告知案内
第10ヶ条 在宅専門クリニックが開設した有床診療所「たんぽぽのおうち」
たんぽぽクリニックの有床診療所「たんぽぽのおうち」には5つの機能があります。
たんぽぽのおうちの機能の一つ目は、在宅療養準備のため病院から診療所の病床へ移行する「トランジット機能」です。急性期病院で何らかの治療を受けた後、いきなり自宅に帰るのは、患者さん・ご家族にとってまだまだハードルが高いようです。その理由として、急性期病院は在院日数が短く、患者さんが生活の場に戻るための十分な情報提供や準備を行う間もなく、不安を抱えたまま退院を余儀なくされることがあります。一方、病院から診療所へ転院するのなら、病院側もその後の対応がイメージできます。当院に相談をいただき、転院後は在宅医療のプロである私たちが支援して調整すれば、どんな状態でも安心して自宅に帰り療養を続けられるようになります。現に、たんぽぽのおうちを開設して以降、病院からの重度患者や看取り患者の紹介が大幅に増えました。
機能の二つ目は「看取り機能」です。当院ではこれまでも9割近くの方を在宅で看取っていたのですが、介護力等の問題により、家で看るのはどうしても無理な場合があります。そのような方にも入院していただき、在宅で診ていた医師が引き続き診療することで患者さんやご家族は安心して療養できると思います。看取った後のご家族は、「ここでよかった」と満足感も得られるようです。
三つ目は「レスパイト機能」です。在宅患者の介護者が疲れた時に、一時的に「たんぽぽのおうち」に入院することで介護者は休むことができ、リフレッシュしてまた在宅療養の継続が可能になります。
四つ目は「食支援機能」です。介護食士の資格を持つ調理師を中心とし、言語聴覚士・管理栄養士等が協働して、患者さんに最適な嚥下調整食を提供しています。病床の調理室『たんぽぽクックラボ』では、患者さんが食べやすくおいしい料理を日々研究し、亡くなる前も絶食にするのではなく、患者さんの思い出の味やお好みの料理を提供する取り組みもしています。
五つ目は「障がい短期入所機能」です。小児から若年者を対象に、人工呼吸器管理や吸引、経管栄養等の医療的ケアを必要とする方が、日中のデイサービスや宿泊サービスとして利用しています。この機能は医療保険からではなく、障害福祉サービスとして設定されているので、現在手厚い報酬が手当てされており、有床診療所の経営改善にも大きな役割を果たしています。
「たんぽぽのおうち」ができたことで患者さんもご家族も安心して自宅で最期まで過ごせるようになり、私たち医療従事者も在宅療養が困難な患者さんに安心して提案できる選択肢が増えたのです。ご自宅で大切に介護されている患者さんが入院しても、「おうち」にいるように、またはそれ以上に手厚いケアが提供できることを目指し、「たんぽぽのおうち」での多職種による支援を続けていきたいと考えています。