たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第40回 看取りの質を高める8つの大切なこと

まだまだ病院での看取りが7割を占める日本。住み慣れた場所での看取りが可能になるよう地域包括ケアシステムの整備が国策として進められています。しかし、ただ自宅での看取り数を伸ばすことだけを考えていてよいのでしょうか?

患者さんやご家族にとって、看取りの機会は一度きりです。「これで良かった」と納得できる看取りであってほしいと思うのです。亡くなっても納得できる看取りとは、「本人の身体が楽でやりたいことができ、見送ったご家族もその死に納得できる」ことではないでしょうか。そのような「納得できる看取り」を目指すにはどうしたらよいのでしょうか?
「納得できる看取り」のためには、8つの大切なことがあると思います。

1.患者さん本人とご家族の不安を取り除くこと
療養や生活の不安をなくすのは在宅医療の開始時に最も大切なことです。

2.患者さん、ご家族と信頼関係を築くこと
医療の基本であり、どんな困難事例の患者さんにもしっかりと向き合って信頼関係を築くのです。

3.死に向き合うこと
現在の日本では、亡くなる最期まで治し続ける医療が当たり前になっています。「治し続けて死を迎える」のではなく、死に向き合い「亡くなるまでどうより良く生きるか」を考える医療への変革が必要です。

4.身体を楽にすること
痛みやしんどさが強ければ、今の時代は病院に入院したいと思うでしょう。身体を楽にすることは在宅医療でも十分に行うことができます。とことん楽にして、患者さんが穏やかに明るい気持ちで療養できるようにしましょう。

5.医療を最小限にすること
病院の医療をそのまま在宅に持ち込んでは、本人、ご家族、医療者もしんどいだけです。頻回の点滴や吸引、注射などがあっては住み慣れた場所での療養や看取りは難しくなります。

6.亡くなる最期まで食べる支援をすること
医療を最小限にすれば、亡くなる最期まで食べることができます。多職種の専門職が関わり、ご本人が望むのであれば、食べたいものを食べたい時に食べたいだけ味わえるように支援しましょう。

7.患者さんがやりたいことを多職種で応援すること
限られた命に向き合い、身体が楽になれば、やりたいことが出てきます。やりたいことや望みが叶い、「いい時間」を過ごせれば、本人はもちろん満足しますし、ご家族も家に帰れてよかったと安心できることでしょう。

8.患者さんにとっての最善を一緒に考えること
亡くなる最期までの意思決定は、患者さんはもちろんご家族にとっても大いに迷う選択です。意思決定に関わるスタッフは、患者さんの人生に関わる重要な選択を本人やご家族の心に寄り添いながら一緒に考えましょう。一人ひとりにとって最善は違います。大切なのは選んだ結果ではなく、悩みながら歩んだその過程なのです。

住み慣れた場所での看取りが国策として推進されても、あくまで本人や家族が、「住み慣れた場所で看取ってもらって本当に良かった」と納得できる看取りであるように、在宅医療に関わる皆さんはこの8つのポイントをしっかりと実践し、患者さんに関わっていってください。ただ看取るだけではない、「質の高い看取り」が実践されていくことを願っています。

最後に、私が開業した時から感じていることがあります。それは、在宅医療は目の前の患者さんを診ているだけではだめだということです。在宅医療は、外来医療と入院医療に次ぐ第三の医療と言われますが、外来医療や入院医療に比べ、在宅医療はイメージがわかないと言われます。病院の関係者や一般の人も、どういう時にどのように在宅医療を利用すればよいかが分かっていないのです。
21年前にたんぽぽクリニックを開業した時は、患者さんから「医師が家に来てくれるなんて」と驚かれました。病院から患者さんを自宅に連れて帰る際には、医師に「こんな状態でも家で看れるのか?」と言われたこともあります。しかし時間が経つにつれ、「近所の人がたんぽぽクリニックに自宅で看取ってもらったので、うちもお願いします」という人が増えてきました。気がつくと、人口五十数万人の松山市に、今では十数カ所の在宅医療専門クリニックがあり、多くの患者さんの看取りに対応できる在宅療養支援診療所も増えました。「地域のレベルが上がると、地域のニーズが上がる」私はこのことを実感してきました。在宅医療を知らない人にその価値を伝えていくことが、在宅医療の普及には不可欠です。在宅医療を実践する人は、患者さんやご家族から教えていただいたことを医療従事者として胸に刻み、その学びを還元していくことが大切だと思うのです。

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