たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第41回 在宅医療で大切なこと


在宅医療で大切なことは、「開始時」「療養中」「ゴール」で違うと思います。

在宅医療の「開始時」で一番大切なことは、患者さんの不安を取り除くこと。
今も病院で8割近くの患者さんが亡くなるという時代だからこそ、患者さんは自宅での療養、看取りへの不安を多く抱えていると思います。退院前、最初の訪問時などの段階で不安を取り除いてあげないと、在宅で最後まで過ごそうとは思ってもらえないでしょう。在宅でどのようにどんな医療やケアが受けられるかをイメージできることも大切ですし、家に帰ってからもいつでも相談し、24時間365日の対応も必要でしょう。
必要なときにいつでも医療や介護が受けられる安心感が大切だと思います。

さらに、実際に在宅医療を行う中で「療養中」にいちばん大切なことは、安心できることです。
24時間365日対応や頻回な訪問、多職種連携によるケア等はもちろん、訪問する中で生まれる信頼関係、意思決定や看取りまで、こちらで考えられるすべての選択肢を提示し、安心してもらえる体制の構築が必要です。
在宅医療で療養中に大切なことは、患者さんやご家族に安心してもらうことだと思います。
あるとき、京都からお寺のお坊さんが緩和ケアの現場をみてみたいと当院に見学に来ました。丸1日私の診療に同行して癌患者さんや看取りの患者さんをみて、診療の最後に私が感想を求めたら、そのお坊さんはこう言いました。「先生、在宅医療で大切なのは安心ですね。患者さんやご家族はこの安心を求めているんですね」と。そして、その後、こうも言われました。「先生、実は宗教も同じで、安心が大切なんですよ」。後で聞きましたが、このお坊さんは世界で活躍される大変有名なお坊さんだったことを知りました。

そして在宅医療の「ゴール」でいちばん大切なことは、納得できることです。
ゴールである看取りの際には、本人や家族が納得した最期を迎えられるかが焦点となります。病院なら、「手を尽くしましたが亡くなられました。申し訳ありませんでした」と患者さんの死は医療の敗北であると思います。病院の医療は治すことが前提の「治す医療」だからです。患者や家族はなくなる最期まで治すことに主眼を置いていることもまだまだ多いのです。
しかし、在宅医療は住み慣れた場所での看取りが前提で、患者さんは死と向き合っています。ご自宅で看取ったとき、多くの家族が言って下さる言葉が、「先生、本人の望む家で穏やかに最後を迎えられました。ありがとうございました」と家族側から感謝されるのです。

住み慣れた場所での在宅医療で大切なことは、開始時は不安を取り除くこと、療養中は安心できること、ゴールでは、納得できることが大切だと思います。どこでどう過ごし、どのように最期を迎えるかを考え、達成するとその姿に納得できます。
在宅医療は、亡くなっても満足できる医療を目指さなければならないと思うのです。

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