たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第31回 良い人材が集まる3つの鉄則

今回は、質の高い在宅医療を実現するための最後にして最大のピース、「人財」についてお話しします。
「人手不足で、患者さんを増やしたくても増やせない」
全国どこでも聞かれる深刻な悩みですよね。
では、どうすれば志を持った仲間が集まり、共に成長していけるのでしょうか?

「人が集まらない」と嘆く前に、私たちがすべき3つの鉄則をお伝えします。

現実を知る
まず、現実をお話ししましょう。
私たちの法人で研修を受けて、全国で在宅クリニックを開業した医師は、これまでに12人います。
彼らの多くが口にするのは・・・
「ゆうの森にいた頃は、何もしなくても次々と患者さんの紹介があったのに、いざ自分で開業すると誰も来ないことに愕然とした」
そうです。「黙っていても、患者さんも、そして良いスタッフも集まっては来ない」のです。
人材確保は、偶然に頼るのではなく、戦略的に行う必要があります。

良い人財が集まる3つの鉄則
1.良い活動を、正しく「発信」する
2.職員が「疲弊しない」システムがある
3.「学べる環境」を約束する

この中で「鉄則2:疲弊しないシステム」については、以前お話しした「たんぽぽ方式」がまさにそれです。
「あそこは良い医療をしているけど、疲弊しまくっている」
こんな評判が立てば、誰も門を叩いてはくれません。
今回は、特に重要となる「発信」と「学び」について深掘りしていきます。

(1)あなたのクリニックの"哲学"は、見えていますか?

鉄則1:発信すること

「良い活動をしていれば、いつか誰かが見てくれているはず」
そう考えるのは、少し楽観的すぎるかもしれません。
自分たちがどんな医療を目指し、どんな取り組みをしているのか。それを積極的に「発信」しなければ、存在しないのと同じです。
ホームページ、ブログ、SNS、YouTube、書籍、地域の勉強会・・・手段は様々です。
大切なのは、単に「在宅医療やっています」と書くだけでなく、その活動に込めた理念や哲学を伝えることです。
私たちの「最期まで食べる支援」や「人生会議」への取り組みを知った未来の仲間が、その理念に共感し、全国から私たちの門を叩いてくれます。
あなたの発信は、未来の患者さんだけでなく、未来の仲間も見ています。

(2)"スーパーマン"は要らない

鉄則2:疲弊しないシステム「たんぽぽ方式」
高い志を持つ人ほど、自分の身を削ってでも患者さんのために尽くそうとします。
でも、自分の人生や生活を犠牲にして奉仕するような医療は、その人がいなくなれば継続できません。
そこで私たちが構築したのが、職員が疲弊しないための「たんぽぽ方式」という24時間対応システムです。
これは、医師や看護師といった同一職種が最低でも4人以上で当番を組む「4人1ユニット制」を基本としています。

例えば医師の場合、4人いれば:
・ 平日の夜間対応は週に1回
・ 週末の対応(金曜夜~月曜朝)は月に1回

当番の日以外は、しっかり休むことができるんです。
この「オン」と「オフ」をはっきりさせるためには、当番でない日に自分の患者さんを他のスタッフに安心して任せられる信頼関係が不可欠です。
だからこそ、毎朝のミーティングでの「情報の共有」と「方針の統一」が絶対的な鍵となります。
理念だけを振りかざすのではなく、それを支える具体的なシステムがあって初めて、組織は永続的に質の高い医療を提供し続けられるのです。

(3)「こき使われる場所」ではなく「成長できる場所」へ

鉄則3:学べる環境
3つの鉄則の中で、私が最も重要だと考えているのが、この「学べる環境」です。
病院での医療と在宅医療は、似ているようで全く異なります。
検査や治療を施す「Doing(ドゥーイング)の医療」が中心の病院に対し、在宅医療は患者さんに寄り添い、共に在る「Being(ビーイング)の医療」が主体となります。
このマインドセットの転換から、私たちの教育は始まります。

さらに、在宅医療は診療報酬、介護保険、福祉制度などが複雑に絡み合います。この制度の知識がなければ、自信を持って患者さんのマネジメントはできません。
そこで始めたのが「全国在宅医療テスト」です。今では全国から3,500人以上が参加するこのテストを通じ、プロとして必要な知識を体系的に学ぶ機会を提供しています。
医学生や研修医を積極的に受け入れ、在宅専門医を育成し、開業まで支援する。
こうした「ここに来たら、こき使われるのではなく、学んで成長できる」という環境を整えることこそ、最高の投資だと私は信じています。
「理念」「システム」「人財」
この3つが揃って初めて、質の高い在宅医療は実現し、地域に根ざし、継続していくことができるのです。

今日お話しした3つの鉄則

1.発信する ─ あなたの哲学を見える化する
2.疲弊しないシステム ─ たんぽぽ方式で持続可能な体制を
3.学べる環境 ─ 成長できる場所を提供する

これらを意識して、ぜひ実践してみてください。

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